さて、彼が現れてから5分。声をかけたのは3名。あ、また、2人組の女性。恋人の離れた隙に、という人もいた。なかなかやるなあ。
ちょっと遅れますとメールを送って10分間。待ち合わせの場所からすこし離れた場所で見守る。我が恋人ながら、流石の集客率である。客、とは違うか。
またひとり、わざわざ襟を抜き直すように背中のおはしょりを引っ張り直してグラマーな女性が近づく。あー、あれは秀、めっちゃタイプのおっぱいちゃんじゃないの、とひとり盛り上がる。
「お姉さんも彼に夢中?」
隣で声が聞こえて、振り向くと日に焼けた見知らぬ彼は私と同じように秀一を眺めている。
「あの人のせいでだーれも捕まんないの」
「そりゃ諦めた方が潔いわ」
「だよねえ」
諦めたように嘆く明るい髪が揺れた。可愛い顔してるのに、秀のせいでもったいない。
「お姉さんは声かけにはいかないの?」
「んー、それより待ってみようかなって」
「声かけられるの?」
「うん」
「俺に?」
「ふふ、それもいいけど」
寄りかかっていた壁から背を話して、彼の向こう側へと視線を向ける。
「もっといい男に」
彼は私の視線を追って振り返ると、秀一の姿を認めて驚き、それからまるで銃口でも突きつけられたかのように降参の手を挙げて去っていった。ずるいなあ、お姉さん、と言葉を残して。
「お待たせ」
私は笑う。
「全く何をしているんだ」
「彼は予想外」
にっこり微笑んで浴衣姿の彼の腕に自分のを絡めた。
「似合ってるわダーリン」
「君もなハニー」
そっと私の髪を撫でる。怒っても構わなかったのにな、と絡めた腕の先で手を繋ぐ。たまに、とても自慢したくなるのだ。恋人の素敵なところ。
「やっぱり好きだなあ」
こういうところ。笑みを含んだ言葉は、祭囃子に紛れた。



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