ふわふわの綿飴みたいな白髪がつい懐かしくて「銀ちゃんじゃん」と呟いた声は、思いの外普通に声を掛けたくらいの音量で口から溢れて、自分の声なのにびっくりしてしまった。手元のケータイでゲームをしていたその人もちょっと驚いた顔をして、私の顔を認識すると「おー、」と返事なのかわからない曖昧な声を漏らした。それがあんまりにも変わっていなくて、まあそりゃあたった二年で人が変わるかっていうとそんなことはないんだけど、とにかくその様子がなんだか嬉しいのと、互いに驚いた様子がおかしくって私は意味もなく笑った。
「え、やばい久しぶり。まだ先生してるの銀八先生」
「まだってなんだまだって。先生してるよ」
「してるよね、生徒から大人気の先生だもんね」
「その手の皮肉は聞き飽きてっからやめてくんない?」
私の顔を見てすぐにゲームに視線を戻していた銀ちゃんが顔を上げて、心底うんざりした顔をした。携帯を閉じる前に、銀ちゃんが操っていたキャラクターが全滅したのが見えたから、そのせいかも知れない。
平日の夜の電車はそこそこ混んでいて、私は手すりの傍に立つ銀ちゃんと向かい合うように狛犬ポジションに身を寄せた。あんまり気にしたことなかったけど、銀ちゃんって結構背が高いんだな、と見上げてみて思った。
銀ちゃんこと銀八先生は私が高校の時の担任の先生だ。授業中でも大きなペロペロキャンディを咥えているほどの甘党で、およそ先生らしくない死んだ魚の目をしていつだって気怠げに教壇に立っていた。割と頭はいいはずなのにだいぶ自由な学校だったから、生徒にも変わり者が多かったし先生たちも変わり者が多くて、丁度よくいい加減で親しみやすかった。
「お前はちゃんと働いてんのか」
「働いてるよー、銀ちゃんより全然超働いてる、看板娘」
「俺がどんな苦労してるかわかってんのか? 大変なんだぞ先生ってのは」
「知ってるよ? 知らないわけないじゃん、およそ生徒に興味があるとは思えない銀ちゃんが、私が就職組なこと覚えてるくらいには大変なんだもんね」
「別に苦労掛けられてなくてもそんくらい覚えてるよ」
なんとなく面倒臭そうに答える銀ちゃんが、本当はめちゃくちゃ生徒のことが好きなことは知っている。何か出来事がなくたって、たった二年前の生徒の進路を覚えていることは特別なことじゃない。それでもうっかり嬉しいことがちょっと嬉しかった。
「もっちゃんとかまだいる? 元気?」
「あー、いるいる。元気元気」
「今度うちの店おいでよ。仲良しでしょ」
「仲良しじゃねぇが、まあ気が向いたらな」
「向いてよ。今年中なら多分まだいるし」
もっちゃんっていうのは数学の坂本先生のことで、超頭いいんだけど天才の奇人だった。数学は嫌いだったけど、もっちゃんはたまに言ってることが意味わかんなくて、だけどいつでも楽しそうで無駄に大きな声で笑うから、もっちゃんの授業は好きだった。あの学校の先生たちは確かに先生だったけど、子供みたいな人が多かった気がする。
「今年中ねえ。何、辞めんの?」
「まだわかんないけど。ほら、所詮親戚のやってる店じゃん? 私バイトからやってるし慣れてるからさ、結構仕事任されてるんだけど。勝手がいいからか、息子…従兄なんだけど、そいつと結婚させようとしてるっぽくて」
「はァ」
「店は好きだけど、全然そんな気ないし。他のお店も見て勉強しよっかなって」
フゥン、と銀ちゃんはちょっと考えるような顔をした。なんだか意外そうな顔。いいんじゃないの、なんて適当な言葉が返ってくると思ったのに、そっちが意外だ。
「、」
銀ちゃんが口を開きかけた時、私たちがいるのとは反対側の扉が開いて乗客が流れ込む。あっという間に車内は人で埋まってぎゅうぎゅう詰めだ。
銀ちゃんは背中側から人に押されて、眉を潜めながら一歩前へ出た。目の前に、銀ちゃんの味気ない無地のネクタイ。私も隣の人とドンと肩がぶつかって思わず身を縮めながらちょっと見上げたら、緩めたネクタイの結び目と第二ボタンまで開けっ放しのワイシャツの隙間から骨張った鎖骨と喉仏が見える。そのままさらに視線をあげたら、あまりの混みようにムッとした顔の銀ちゃんと目が合った。銀ちゃんの片手はカバンを持っていて、もう一方は私の頭の横に伸ばされて壁に手をついている。
「ふっ…まさかの壁ドン」
「笑ってんじゃねぇぞ」
呆れ顔の銀ちゃんが、私を押し潰してしまわないように、あるいは元教え子とこれ以上の接近をしないように自分の体を支えているのが結構必死で、言われてもなお笑ってしまった。
電車が揺れる度に人の波が揺れる。電車が進んでこっち側の扉が開いても、銀ちゃんが壁になって私ひとりそう不快な思いをすることはないようにしてくれている。そういう紳士的なところが、なんでもないところで見える人なんだよな、と会話の途切れたままの銀ちゃんのネクタイを見つめる。だからきっと、無意識に勘違いさせちゃうんだと思うと罪な人だなと思う。
「次だろ」
「え?」
「降りるの」
息が耳元に触れるほどの距離で声がして、不覚にもどきりとした。慌てて人の頭の隙間から電光掲示板を探す。
「うん、次、ていうかここ」
電車はちょうど駅に着くところで、たくさんの人を乗せて重たそうに急ブレーキがかかった。ぐらりと体が揺れるのを、銀ちゃんが支えてくれる。ギュッと頬を押し付けた銀ちゃんのワイシャツはほんのり砂糖菓子みたいな甘い香りがした。
「降ります」
鮨詰めの電車が止まった駅は、扉が開いても全然人が降りない。大きな駅の二つ前。全然動かない人にちょっと腹を立てたように言って道を開けさせて、電車を降りた。
少し淀んでいた空気から夜空の下に出て、息をつく。シューっと空気の音とともに扉が閉まって、電車は発車する。人気の少ないホームに降りて振り向くと、銀ちゃんはずっと壁と突っ張り棒をしていた腕を回している。
「って、え。銀ちゃん降りる駅違くない?」
「おじさんはなぁ、日頃から体に気をつけて二駅くらい余裕で歩いちゃうんだよ」
「銀ちゃん自分のことお兄さんって言わせるじゃん」
「お兄さんでいるためには努力が必要なの」
「努力とか説得力のなさ」
言い訳なのか屁理屈なのかわからないけど、いい加減な言葉に笑ってしまう。銀ちゃんのこういうところは気が抜けてしまっていけない。ちゃんと尊敬だってしてるのに、銀ちゃんを見てると笑ってしまうのだ。
年下に笑われたって銀ちゃんは全然気にする素振りは見せないで、いつもの気の無い顔のまま私の頭をわしわしと撫でて横を通り抜けた。
「おら、いくぞ」
「…送ってくれるの? やっさしー」
「今更気付いたかい」
「知ってたー」
小脇に鞄を抱えて無人改札を抜けるちょっと猫背の背中を追った。銀ちゃんが優しいことなんてとっくに知ってるよ。

三年生の頃、私の友達が銀ちゃんのことを男性として好きになって、問題になった。
もちろん生徒が先生に好意を持つなんてのは、少女漫画の中だけじゃなくて割とあることなんだと思う。それをいなすのも先生の仕事だと思うと本当に大変だなって思うけど、生徒である私たちの幼さは大人が思うよりも純情で切実だ。彼女は銀ちゃんのことが好きで好きで、わざわざ下校した後に私服に着替えて仕事を終える銀ちゃんを学校の傍で待ったり、家にまで押しかけた。
私は彼女の気持ちを聞いていたし、彼女の行動も知っていた。でも銀ちゃんはそういうのを上手く交わしてしまうんだろうと思っていたし、当時は彼女をそこまで思い込ませてしまうような優しさを見せたのは銀ちゃんなんだから、大人はその気持ちにちゃんと対応するべきだと思っていた。
それに何にも考えないで過ごしていた私は、そこまで誰かに夢中になれる彼女が羨ましくて、傷付いてしまえばいいなんて思っていたことに後になって気付いた。
勝手な予想通り、銀ちゃんはちゃんと上手く交わしていた。彼女が銀ちゃんを好きなことは明白だったけど、銀ちゃんの対応はよくも悪くも全然変わらなくて、だから変な関係を疑われたりはしていなかった。
きっかけは、私だ。
クラスの男子からの告白を断った時、それは放課後の教室で、他には誰もいなくて、そこに銀ちゃんが偶然居合わせたのだ。私は、相手の男子に掴み掛かられていたところだった。その子は銀ちゃんを見て、何も言わずに逃げてしまった。銀ちゃんは何にも事情を聞かずに私を保健室に連れて行って、私が月詠ちゃんに事情を話している間ずっと、保健室の外で待っていてくれて、落ち着いたのを見計って家まで送ってくれた。
それから、いろんな思いが行き違った。
銀ちゃんのことが好きだった私の友達は、銀ちゃんに浮気されてひどい振られ方をした、なんて噂を流し始めた。銀ちゃんに守られた私に嫉妬したのだ。
私のことを好きだと言った男子は、銀ちゃんが私のことを狙っているのだと吹聴し始めた。思いを遂げる邪魔をした銀ちゃんを憎んだのだ。
そうなってしまえば噂は混ざり合って、尾鰭をつけて、泳ぎ出す。
銀ちゃんも私も、それに取り合わなかった。全然、全く、いつも通り。
だって銀ちゃんだし、私だ。ないじゃん、普通に考えて。
一応、いくら自由な校風といえど教師が生徒に手を出している、なんていう噂には学校側も動きを見せた。緊急会議が開かれたら、そりゃあ気になる。
私は呼ばれなかったし、銀ちゃんはその後もいつもの気怠げなやる気のない顔で教室に来たから、その後は呆気なく噂は消えた。別に皮肉とかじゃなくて、銀ちゃんは先生からも生徒からも人気があったし信用があったから、ちゃんと火消ししてたんだと思う。
彼女はさすがにこっそり呼び出されたみたいで、ちょっと学校を休みがちになった。
火のないところにも煙は立つんだなあ、と思いながら、だけど私には何のアクションもないことがなんだか不公平な気がして、私は進路希望調査用紙に「銀ちゃんのお嫁さん」なんて書いてみたのだ。で、まんまと呼び出しをくらった。
呼び出された時間に教室に行くと、うんざりした顔の銀ちゃんと呆れた顔の月詠ちゃんがいて、ちゃんと保険かけてきてるの偉いなあなんて笑ったら、割と真面目に叱られたのが面白かった。
月詠ちゃんは苦々しく「この心は」と調査用紙をひらりとこちらへ差し出して「事の顛末を知りたくて」と素直に答えると、銀ちゃんが「せめて聞き方があんだろ、俺を無職にする気か?養ってくれんのか?」とそんな時まで飴を舐めながらごちたから「ほらそのために働くんじゃん?」と第二志望の記入を指差した。それが、当時からバイトで働いていた叔父の経営するカフェだった。今の職場だ。
ちゃんと進路を決めていることを話すと、二人は渋々大まかに会議でのことを教えてくれた。校長と教頭は何かと騒いでたみたいだけど、理事長は銀ちゃんのことをよく知っているし、月詠ちゃんが私のことも事情を説明してくれて、厳重注意で済ませてくれた、ということだった。
彼女とは直後疎遠になったけど、卒業式の日に泣きながら謝られて今でもたまに連絡を取っている。謝るのは私にじゃなくて銀ちゃんにだと思うけど。
彼とはあの日以来一度も口を聞いていない。
「みょうじはさっさと適当に結婚とかして子供とかできちゃって家族経営にどっぷりハマっていくのかと思った」
「いやないでしょ」
随分昔のことみたいに思い出しながら、同級生の近況だとか仕事の愚痴だとかを取り止めもなく話しながら夜道を歩く中で、銀ちゃんがあの意外な顔の理由だろうことを口にした。全然ないわ。
「クラスの誰に聞いても納得しないよ、私そんな子に見えてた?」
「いや見せないけど実は、とかあんじゃん」
「ないない。しかも適当にとか、銀ちゃんこそ適当に言ってない?」
「俺はいつでも真面目に生きてんだろうが」
「クラスの誰に聞いても納得しないよそれ」
送ってくれるお礼にって、駅の自販機で買ってあげたいちごミルクはもう飲み干してしまったみたいで、手に持ってぷらぷらと揺らしている。私の手にある缶コーヒーはまだ半分くらい残っている。
「でも結婚するなら銀ちゃんみたいな人がいいなとは思ってるよ」
「男を見る目は俺が保証してやらァ」
「銀ちゃん結婚しないの?」
「簡単に言うけどなァ、大変なんだぞ結婚つーのァ」
「だから一緒に乗り越えられる人と結婚するんでしょ?」
「あー…。お前いいこと言うな」
「見直した?」
「見直した見直した」
そうやってまた適当に返す顔が笑っていたから、私も笑った。多分こんな会話は学生の頃だってできた会話だけど、その顔は先生と生徒じゃ見れない顔で、だから嬉しかった。私は銀ちゃんといると、小さなことで嬉しいらしい。こんな些細なことでも嬉しいなら、もっといろんな顔を見れたらもっと嬉しいだろうか。
「あ? お前、道こっちだろ」
「え? ああ、ううん。今一人暮らし。て言っても全然近いんだけど」
「…あとどんくらい?」
「すぐすぐ。あの角曲がって、二つ目の路地」
ふと銀ちゃんは足を止めて、ちょっと考える。あの日に送ってもらった家は実家で、今は一丁違うだけの一人暮らしだ。きっと銀ちゃんは何かに気を遣っている。時間を気にしている、と言うわけでもないだろう。ここからだと実家のほうがちょっと遠いし、銀ちゃんのことだから自分のことじゃなくて人のことで気にしているんだ。
「全然、もうすぐそこだしここでいいよ」
「んー、」
「心配してくれるなら、別にいいよ家の場所知れたって」
当たりだ。あの角を曲がれば道が細くて、より人気がない。けれど、女の子の一人暮らしの家の前まで行くのはどうなんだ、と。実家なら大きな通りに面しているし、一応行ったことのある場所だし、マンションだから入り口まで行っても差し支えないと思っていたんだろう。
「銀ちゃんならいいよ」
警戒心のない、無防備なままの私じゃないよ。
「…ああ、そう」
あ、今、ちょっと動揺した。思ったけど、それは口には出さなかった。
銀ちゃんは小さく息を吐いてから、先を歩く私の後にゆっくりとついてきた。背が高ければ足も長いから、すぐに横に追い付かれる。そういえば、前も今も、銀ちゃんの隣を歩くのは大変じゃなかった。そんなに自然に歩調を合わせてくれるなんて、ほらそういうところ。
銀ちゃんはまだ何かを考えたままみたいな顔をしていたけど、外灯に照らされるその横顔がちょっと色っぽくて、何を考えてるのって聞くよりも見ていたい気持ちになった。家がもうすぐそこなのが、もったいないな。
角を曲がる直前、車が通ったのを避けるように肩が触れる。ずっと車道側を歩いてくれているのは、ちゃんとわかってやってるんだろうか。電車で息が触れるほどの距離でいても、抱きしめるように人混みから庇ってくれても、こんな風に不意に肩が触れても、銀ちゃんは銀ちゃんの顔のままだ。
じゃあさっきの、ちょっと迷う顔はなんだったんだろうな。
「あ、ねぇ銀ちゃん。連絡先教えてよ」
アパートの前まで来て、じゃあって言われる前に声をかけた。
「エロいサイトに登録すんなよ」
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲パフェ出したげるから」
「食べ物ではアウトだやめろ」
「ほらほら、携帯!」
自分の携帯を出して促すと、得意じゃねえんだよ、と小さく文句をいいながらもポケットから携帯を取り出す。何の気なしにそれを見ている私を見る視線に気付いて目が合ったけれど、銀ちゃんはすぐに携帯に視線を戻してなんでもないように目の前で暗証番号を入れた。あ、見ちゃった、と思ったけど、隠さなかったんだ。どうせゲームにくらいしか使ってないから、とか、言われるのかな、聞いても。
「わーい、銀ちゃんの連絡先ゲット!」
「銀八スペシャルパフェな」
「任せといて」
なんていい加減な取引だろうか。もっと嘘か本当かわからないようなことを言って誤魔化されると思ったのに、言ってみるものだ。意地悪なことをしてやろうでもなく、下心というものを持っているつもりはなかったけど、なんだか無性に嬉しくて顔が緩む。
アドレス帳に表示される銀ちゃんの名前ににやにやしていると、視線を感じて顔をあげた。銀ちゃんと目が合って、その顔がすごく優しく微笑んでいて、それはとっても柔らかくて、だけどそれはふとした時に生徒を眺めている時の銀ちゃんの顔で、ああそうだよなァって私は納得してしまった。
別に何を期待していたわけでもないけど、銀ちゃんに恋なんてしてないけど、少しだけ寂しくなってしまう。自分が元生徒だなんてことはよおくわかっている。
「俺が言えたことじゃないが、家を教える奴は選べよ」
「銀ちゃんこそ、連絡先教える子は選んでね」
「選んでるさ」
「わ、」
銀ちゃんはまたわしわしと私の頭を撫でて、それから意地悪く口の端を持ち上げた。
「みょうじはいいんだよ」
なんて、男だろう。
全然、先生の顔なんかじゃ、ない。
「ほら、さっさと帰って寝ろ」
「…今度子供扱いしたら惚れてやるんだから」
「大人なら美容と健康に気を遣えな」
得意げに笑う顔は自分こそ子供みたいで、きっとこれはただの仕返しだ。だけど、これが仕返しなら、仕返しとして成功したからそんな顔をしたのなら、あの時の銀ちゃんの戸惑いはこの気持ちとおんなじだったんだろうか。
「連絡したら、ちゃんと返事してね」
「あ? あー、うん」
きっと連絡不精だろうことなんて承知の上で、だけど、するする、なんて気の無い返事よりも素直で、それで十分だった。
じゃあなって銀ちゃんはすぐに背を向けてしまったけど、その足取りはゆっくりで、私がアパートの部屋の前で振り返ったらまだ路地の途中でこちらを見上げていた。心配性で、その気遣いも嬉しくて手を振った。銀ちゃんがひらりと手を挙げたのを見て、部屋へと帰った。
靴を脱ぎながら、送ってくれてありがとうおやすみ、とメールを送ると、すぐに、おーおやすみ、と短く返事が来た。
銀ちゃんは元担任で、私は元生徒だ。そんなのはわかっていて、何度も言うけど別にそれ以上を望むとか、どうなりたいとかは思っていない。銀ちゃんを大好きだったあの子みたいに、自分が特別だとかは思わないし、私を好きだと言ったあの子みたいに、何かを求めているわけじゃない。
あんなに残酷なほどの純情な感情を持ったりできる人間じゃない。
なのに、メールの返事がこんなに嬉しいなんて変なの、と思いながら、いつもより長くお風呂に入って、いつもより丁寧にパックをして、いつもよりも早く布団に入った。布団の中で、銀ちゃんが喜びそうなスペシャルパフェを考えながら、眠りについた。



back