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「エレン!どういうことだ!?」



「シャオに何て事するの!!一体どういうつもり!?」



「その腕をピクリとも動かしてみろ!その瞬間てめぇの首が飛ぶ!!出来るぜ俺は!本当に!!試してみるか!?」



「オルオ!落ち着けと言っている!」



一人エレンの盾となり牽制する意を唱えるリヴァイを見て、ペトラは激昂する。



「兵長!エレンはシャオを傷つけたんですよ!?何で冷静でいられるんですか!!」



「シャオは巨人化の衝撃で吹っ飛んだだけだ。コイツの意思じゃない。下がれ」



言いながらリヴァイはチラリとシャオに視線を向けただけで、倒れている彼女に駆け寄ろうともしない。その行動はペトラの怒りを煽るのに充分な行動だった。

ペトラは、リヴァイがシャオに好意を寄せている事に気付いていた。彼の視線や行動を見ていればすぐに解る。それなのに彼女に怪我を負わせた奴を庇うなんて、正気の沙汰ではない。



「…兵長、エレンから離れてください…私がやります」



怒りのあまり震える声でそう訴えても、リヴァイは頑なにその場を動こうとしない。



「いいや離れるべきはお前らの方だ。下がれ」



「何故ですッッ!?」



「俺の勘だ」



「〜〜〜っ!!!」



あっさり勘だと答えるリヴァイに、ペトラは失望し声を出す気力もなくなる。へなへなとその場に膝をつき、敵意剥き出しの目を向けても、リヴァイは全く動じない。

辺りが重苦しい雰囲気に包まれる中、沈黙を破ったのは、この場にそぐわぬキラキラした目で鼻息荒く駆け寄ってくるハンジであった。



「何!?何の音!?何が―――!?うぉおおおお!!」



森林近くの小屋で、遅れて到着した部下達と今後の計画を立てている最中だったハンジは、巨人化したエレンを遠目で確認すると、両手を上げて喜びを顕にする。今回エレンは全身が巨人化した訳ではなく、変型したのは右手だけのようだ。



「エレぇン!!その腕触っていいぃぃぃ!?」



緊迫した状況など自分には関係ないと言わんばかりにグンタやオルオを突き飛ばし、そしてリヴァイをも飛び越えてハンジは、エレンが出した巨人の右手に触れる。その瞬間、ジュウウウという肉が焼ける音がこだました。



「あッッつい!!」



あまりの高温にハンジは掌に火傷を負い、その場に尻餅をつく。それでも何がそんなに愉しいのか、彼女は満面の笑みを崩さない。



「皮膚無いとクッッソ熱ッいぜ!!これ!!すっっげぇ熱いッ!!」



げらげらと転げ回って笑うハンジに、もう我慢できないとペトラは青筋を立てて詰め寄る。



「笑ってる場合ですかハンジ分隊長!シャオが怪我をして気を失ってるんですよ!!」



「え!?シャオが!?」



はたと我に返り、キョロキョロとシャオを探すと、ペトラの言う通り倒れているシャオの姿が確認できた。彼女を心配そうに眺めてから、ハンジはリヴァイに目を向ける。



「リヴァイ、シャオは大丈夫なの?」



「ああ。問題ない」



「ならオッケー!!ねぇ、エレンは熱くないの!?その右手の繋ぎ目はどうなってんの!?すごい見たい!!」



根拠のない「大丈夫」でシャオから視線を外したハンジを見て、またもやペトラは殺気立つ。大切な友達を蔑ろにされて、感情が爆発しそうだった。
あと少ししたら泣くかもしれない。

しかしハンジもここでペトラを気遣えない程鬼ではなく、きちんとフォローを入れてやる。



「シャオに何かあれば一番取り乱すのはリヴァイの筈だよ?その恋人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なんだよペトラ!」





「「「…恋人…?」」」






あっけらかんとカミングアウトしたハンジを見て、リヴァイ班の面々はブレードを握っている手はそのままで動きを止めた。そしてエレンも、ハンジの質問に答えるのを忘れて、微動だにしない。

しーん、という文字が頭上に現れた後で時間を取り戻したエレンは、巨人化した右手から自身の腕を引き抜いた。ブチッと神経が切れる嫌な音がする。

引き抜いた衝撃で後ろに転げ落ちると、本体が外れた巨人の右手はすぐに蒸発を始める。この勢いだと一分と持たずに溶けてしまうだろう。これからじっくり生態調査を始めようと息巻いていたハンジは、エレンのこの行動に絶句する。



「あぁぁ!ちょっとエレン、まだ調べたいことが……「恋人って!!」



しかしエレンもエレンで一大事なのだ。頭を抱えるハンジに食い気味に問えば、ハンジは「え?」と目を見開く。

そんなに必死の形相で何をそんなに知りたいのかこの少年は、と考えた後で、エレンが恋人という単語に食いついていたことを思い出す。その間、コンマ1秒。



「え、もしかして皆知らないの…?ごめんリヴァイ、言っちゃマズかった?」



片手を額に当て、やっちゃったと反省の色を示すハンジに、リヴァイは特に表情を変えずに答える。



「別に隠しちゃいねぇ…言ってもねぇがな。お前はシャオに聞いたのか?」



「ううん?ミケだよ」



「ほう…存外、口が軽い野郎だな」



このやり取りでハンジの言葉が事実だと知ったリヴァイ班は、皆一様に微妙な表情を浮かべる。


人類最強との呼び声高いあのリヴァイ兵長が。恋愛などという浮わついたものとはかけ離れた存在だと思っていたあのリヴァイ兵長が…!?


ピシッと空間に皹が入った所で、リヴァイは地面に座り込んでいるエレンに近寄り、相変わらずの無表情で見下ろした。



「…よぉ。気分はどうだ?」



巨人化の影響だろうか、エレンは酷い顔色だった。呼吸も荒い。しかしエレンの精神が乱れているのは、巨人化のせいだけではない。ゼェゼェと肩で息をしながら、あまり良くありません、と答えるエレンを一瞥した後、リヴァイは漸くシャオの方へと向かった。

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