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さて、事件が起きたのはこの後だ。

コンビニから帰ってきた銀時が万事屋の入り口の階段を登ろうとすると、何処からか赤ん坊の泣き声が聞こえる。
ん?と辺りを見回し、その泣き声が何処から聞こえるのかを突き止めると、なんと階段の横に無造作に置かれた桶の中から聞こえてくることに気がついた。


恐る恐る桶に掛けられた白い布を捲ると、銀時と瓜二つの赤ん坊と手紙が中に入っていた。


『あなたの子供です 責任とって育ててください 私はもう疲れました』





手紙にはそう記されていた。





その短い文面を何度も何度も読み返す。



「…いやナイ。ナイな、これはナイ」


鼻をほじり声に出して否定しつつも視線は赤ん坊と手紙に釘付けになっている。


「…ったくバカ言ってんじゃねーっつーの」


そう吐き捨てて無視を決め込み、再び階段を登ろうとしたが、階下からばぶーばぶーと声が聞こえてくるのに、その場を立ち去ることがどうしても出来ない。

もう一度赤ん坊の前に戻り、嫌な汗をびっしょりかきながら、朝一で銀時は大声で叫んだ。


「ナイナイナイナイナイって!これはナイって!!だってアレだもん!アレはなんやかんやで色々あって総合するとナイ!これはナイって!!」



ソーコと付き合ったのはつい一ヶ月程前のことだし、それ以前に女と寝たことは何度もある。
だが大抵後腐れがなさそうな女をちゃんと選んでいたし、避妊だって忘れたことはない。
なので総合するとナイのだが、今此処にいる赤ん坊は自分と同じクリンクリンの猫っ毛でふてぶてしい相貌…悲しいことに自分そっくりなのである。


頭を抱え、項垂れるしかない銀時は、もう一度叫ぼうとしたが…


「だァから…「朝からガタガタうるせェェェ!!」



営業が終わり、やっと床についたばかりのお登勢から怒りの飛び蹴りを食らった。





◆◇◆◇◆◇




とりあえず赤子を【スナックお登勢】に運んだはいいものの。これからどうするか考えると泣けてくる。
何せ、二階では昨日初体験を終えたばかりのソーコが眠っているのだ。

下の騒ぎを聞きつけ駆けつけた新八と神楽の、自分を見る蔑みの目が痛い。



「腐ってる」


「腐ってるね」



年下のチェリーボーイと年配のババアに言われてしまえば返す言葉もない。
身に覚えがない、とは言ったが、この赤ん坊を見てしまえば誰も信じてはくれない。



「…大方、定春の時と同じパターンだろ。万事屋ときいてなんでもしてくれると勘違いした誰かが置いていきやがったんだ。迷惑な話だぜ、なんとか親探し出さねーとな」


自分に言い聞かせるようにそう呟くと、一際じとっとした目を向けてくる神楽が口を開いた。



「サドに何て言うアルか」


その一言で、ピタッとその場にいる全員の動きが止まった。

銀時とソーコは今やかぶき町公認の仲だ。
銀時も親しい人間には真選組の沖田隊長とお付き合いしている、と伝えてあるし、ソーコも近藤、土方、山崎などには報告済みである。それに万事屋の神楽と真選組のソーコが度々公園で遊んでいるのを見て、噂はどんどん広まっていったのだ。

その矢先に起きた不祥事。

事態は深刻だ…が、当の本人に全く身に覚えがないため、真偽のほどは定かではない。



「何て言うって…そりゃあ、そのまま伝えるしかねーだろ?」


万事屋の前に赤子が捨てられてて、更に置き手紙にはあることないことが書かれており、此方に世話を擦り付けようとしていると。

昨夜の情事があった後でこんな話をするのは気が引けるが、変な誤解を生まないためには、あったことをそのまま伝えるのが得策だ。


しかし神楽は難しい顔をした。


「絶ッ対アイツ、悲しむネ。Sだからこそ打たれ弱いアル」


きっぱりそう言われてしまえば返す言葉もない。



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