▼5/5

立ち直らせてくれたのは、他でもない、今目の前に居る彼女だ。


真選組屯所でソーコは言ってくれた。


もう治ったから安心してくれ、と。


唐突に向けられたその一言にどんな意味があったのか銀時には解らないが、そう言って笑った彼女の顔に、エンの幻影はもう見当たらなかった。


銀時は、沖田ソーコだけに想いを寄せたから。
想いが確信になったからだ。


涙は止まったようだが悄気ているソーコを見て頭をガシガシと掻いた銀時は、不意に顔を上げた先のあるものを見て、表情を明るくさせる。

良いことを思い付いた。


「なぁ、折角遊園地来たんだし、あれ乗ろーぜ」


そう提案して銀時が指差したのは、園内を一望できる観覧車だ。銀時がこっそり立てていた計画では、辺りが夕闇に照らされる頃、ムードたっぷりの観覧車で想いを伝えるというベタな内容だったが、昼下がりの晴天下では景色も綺麗に見えるだろうと思い、急遽予定を変更することにした。


銀時が立ち上がるとソーコもそれに続く。了承してくれたようだ。


自然に差し出された手を、ソーコは何の迷いもなく握った。




◆◇◆◇◆◇




江戸の町並みまで見渡せる高さまで来ると、ソーコは窓に張り付いて目を輝かせていた。

遊園地なんて来たことがなかったし興味もなかったが、今この瞬間が楽しくて仕方がない。
ジェットコースターやコーヒーカップが玩具のように小さく見える。段々と高さが増していくと、遠くの山々まで見渡せた。

無意識に武州の方角を目で追い、ソーコは目を細める。

昔から道場に通い、剣の道しか進んでこなかった自分が、着飾って観覧車に乗っている現実が不思議で仕方がない。



「こいつァすげーや。初めて乗りやした」


「そりゃ良かったなァ、ソーコちゃん」


茶化すように名前で呼ばれ、視線を向かいに座る男へ戻す。相変わらず気の抜けた表情で座っている銀時は、景色など見ておらず、ただ此方を見つめていた。

それに気付いたソーコは、身を乗り出していた姿勢を戻し、真正面から銀時と向かい合う。

暫しの沈黙。

観覧車はそろそろ天辺に到達する。



「天辺になったら言うぞ」


突然、銀時がそう呟いたので、何のことかとソーコは瞬きをする。大袈裟に深呼吸をしてみせる銀時は、疑問符を浮かべている彼女に知らない振りをして、眼下の園内の風景に目を向けた。

恋愛なんてものと、全く縁がない人生だった。

初恋の相手を失った後は、遊郭で女を抱いたり、適当に言い寄ってきた女と遊び半分で付き合ったりはしたが、誰かに本気で恋い焦がれることなど今までになかった。

それが当たり前だと思ってきた頃に突然現れたこの少女は、これからの銀時の人生をガラリと変えていく存在になるのだった。


「…天辺ですぜ」


不信、と称するのがピッタリな視線を向けてきたので、銀時は笑ってしまう。この空間で何でそんな目をするのか、彼女もまた恋を知らない女だと予想でき、銀時は頬を緩ませる。


もう一度息を吐き、意味もなく頬をポリポリと掻きながら、「んーまぁ、なんつーかァ…」と歯切れの悪い言葉をゴニョゴニョと呟きながら、この想いを何と言えば一番しっくりくるかを考える。
変に畏まったり格好つけたりしない、そのままの想いを伝えたいと思った。


「…俺さァ、もう絶対ェ好きな奴なんて出来ねーって思ってたんだけどよォ、」


そう言って向かいの彼女の目を見ると、ソーコは大きな瞳を此方に向けて、呆けたような顔をしている。それでも僅かに頬を赤らめているので、何を言われるか大体は解っているようだった。


そうだ。ソーコが自分に向ける好意は確かに感じているのだから、向こうもきっと同じなのだろう。
隠しきれない想いが知らない内に出てしまっていたのだろう。



「たぶんこのまま近くに居たら俺お前のこと好きになっちまうから…俺と付き合ってくんねェ?ソーコ」



不器用な告白だったが、ソーコは息を呑み、両手をぎゅっと握り締めた。今すぐにでも頷きたいのに、体が硬直してしまって動かない。
声なんて出るはずがない。

石化、という表現が一番正しい様子のソーコを、じっと見つめているのは可哀想なので、銀時は窓から景色を眺め始める。

観覧車はゆっくりと下降していく。




別に返事なんていつでもいいや、とぼんやり思っていた銀時の耳に、「…仕方ねェ。いいですぜ」とひねくれた返事が返ってきたのは、観覧車が地上に到達するちょっと前の話。



back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -