漸く落ち着いてきた山崎は、顎に手を当て真剣に考える。
真選組の隊服ではなく、落ち着いた色の着流しを纏った山崎は、年相応の大人の男に見えた。


「万事屋の旦那がそんなことするかな?」


あの男は何を考えているか分からないようで、ちゃんと筋が一本通っている男だ。
間違っても女性を傷付けるような真似はしないと思うし、寧ろ自分を犠牲にしてまで相手を思いやるような節がある。
客観的に見てもそう思うのだから、実際向き合っている彼女に対しては尚更そうだろう。

山崎の問いに、ソーコは難しい顔をして上体を起こした。


「…そーいや、誤解だって言ってた気がすらァ」


「でしょ?俺もそう思うよ。万事屋だし、色々な事情で育てられなくなった子供を預けに来た可能性もあるよね」


「でも、でも、旦那ソックリだったんでィ!」



間。



目だけを見開き無表情の山崎と、今まで見たことがない程必死な形相のソーコ。二人は数秒間見つめ合ったが、我に返ったソーコがバッと顔を逸らした瞬間、山崎は盛大に吹き出した。
ザキに笑われた、と怒りと恥ずかしさで顔が赤くなっていくのが自分でも解る。

俯いてしまったソーコに、ごめんごめんと謝りながらも山崎は頬の緩みを抑えることが出来ない。
さっきの彼女は真選組の沖田隊長ではなく、完全に恋する乙女の顔だった。


「似てたって…まだ小さかったんでしょ?」


「…赤ん坊でさァ」


「それじゃあ解らないよ。向こうも誤解だって言ってるんだし、とりあえず旦那の話も聞いてあげたら?」


耳まで赤く染めて俯いてしまったソーコを励ますように言ってやると、彼女は唇を噛んだ。


わかってる。くだらないヤキモチを妬いて、銀時の話に聞き耳を立てず、彼を困らせているのは自分だ。まずは相手の話を聞いてやらないことには、事態は前に進まない。

笑われた腹いせに山崎に肘打ちを食らわせてから、ソーコはベンチから降り、立ち上がる。


ー…この後ソーコはそのまま一人で万事屋へ向かったのだが、何度チャイムを鳴らしても誰も出てこなかった。






◇◆◇◆◇◆





翌日、ソーコが仕事を終え解放されたのは、午後九時を回った頃だった。厄介な窃盗事件を偶然目撃してしまい、それの事後処理に追われていたら遅くなってしまった。
仕事中は銀時の事を忘れられたが、終わった瞬間に胸の内に靄が渦巻いてきて、ソーコは深い溜め息を吐く。

部下の隊士達に先に帰るよう言い、ソーコは一人寄り道をして帰ろうと、夜の町をぶらぶらと歩く。
かぶき町の方はこの時間から活気が出てくるのだが、其方に行くと時間外の仕事をしなければならなくなる気がしたので、人通りの少ない公園の方へ足を向ける。


今夜は晴天だ。

月が綺麗に見える。

辺りには蝉の鳴き声が響き、此処が都会のど真ん中であることを忘れてしまう。


吸い込まれそうな満月を見上げながら、疲れた身体を引き摺るように歩いていると、夜の公園に数名の先客が居ることに気付いた。
ギャハハと笑い声が聞こえ、視線を夜空から公園に移すと、見知った人影が小走りで此方に向かってくるのが分かる。

月光を反射する髪色に目を細めると、顔を合わせるのが気まずくて、ソーコはふいっと明後日の方向を向いた。



「お巡りさーん、今夜は満月ですね〜」



そう軽く声を掛けてきた銀時は、ソーコの視界に入るように回り込んでくる。



back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -