カラリカラリ配膳台が軽い金属音を立てて少し揺れる。 今日のおやつは昨日私が買ったきのみパイと、ブルーさんから頂いたアールグレイ。 今は鏡の間で会議が行われているので、王女様を待っている間に部屋に飾っている花瓶の花の取り替え、ベッドメイク、その他目につく埃を制服で拭う。 三時の鐘が三つ鳴って少ししてから、王女様が部屋に帰ってこられた。 鏡の間からお部屋に戻るまで付き添っていた、私と同じ王女付きの召使が扉の前で頭を下げていた。 それに軽く頭を下げると、バルコニーにある白い椅子に腰掛けた王女様に、配膳台を運ぶ。 いつも会議のあとは明るいとは言えないけれど、今日は特に浮かない気がする。
「今日は王女様の好きな緑の国のきのみパイとアールグレイでご用意いたしました」
「うわあ懐かしい……あれ?でもボク、レモンにこれが好きって言ったことあったっけ?」
「……ずいぶん前にお伺いしたこてがあります」
「本当?うーん…思い出せないなあ」
「王女様、早くしないと冷めてしまいますよ」
「あ、うんそうだね。せっかくレモンが用意してくれたんだもの。 いただきます」
「紅茶のお砂糖とミルクはどうされますか?」
「いつものがいいな」
「かしこまりました」
紅茶にミルクをたっぷり、砂糖を二つ落としてスプーンで混ぜる。 まだコーヒーのような苦いものはダメらしい。 こういう幼さを見ていて可愛らしい方だと思う。 同い年だけど屁理屈な考えしか出来ない私と比べたら特に。 でも王女様が作った笑顔を浮かべていることにはすぐに気が付いた。 侍女の私が訊いてもいいものか……王女様の憂いが晴らせるなら。
「……今日の会議はいかがでしたか…?」
「……」
私の言葉に王女様は目を少し伏せて、静かにティーカップを皿の上に戻す。 弱々しい声でレモン、と私の名前を呟いた。
「……最近緑の国で、病が流行っているって噂は知ってる?」
「耳にするくらいですが」
最近王宮内でまことしやかに流れている噂。 緑の国で病が流行っているらしい。 緑の国は、私たち黄の国より医療技術が優れている。 未知の病で今特効薬を作っていると聞いた。 この近隣諸国で一番医療技術で秀でているので多分、薬ができるのも時間の問題だろう。
「最近この国も不作が続いてて、これを機に緑の国を手に入れるって……進軍が決まったんだ」
「……それは本気ですか?黄の国と緑の国とは友好関係なのに、それを自ら壊すとは…… 諸国が黙っていないですよ」
「必死に説得したけどダメだった……ボクは争いなんてしたくないのにっ!」
「王女様…」
今まで堪えていたのか、王女様はついにすすり泣き始めた。 私は背中を撫でて、励ますことしか出来ない。 それにしても……緑の国を征服しようだなんてあいつらは一体何を考えているんだ。 自ら戦争を起こそうだなんて、信じられない。 そうやって私欲のために動くのか。 私も王女様もとうの昔に巻き込まれてひどい目にあった。 私は一生貴族院のやつらを許しはしない!
私がイエローを守るから あなたはそこで笑っていて
―食糧難回避のためと銘打った戦争が起ころうとしていた―
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