「ブルーさん!」
「あら、レモンじゃない。こんなところでどうしたの?」
「今日は休みなので買い物に……じゃなくて! 何でブルーさんとレッドお…様がここにいるんですか。 緑の国ですよ?」
「レモンは知らないのね。 あいつよく城を抜け出しては、こういう大会に参加するのよ。 バトル……ポケモン馬鹿だから。 前にあなたの国で行われた大会に参加してグリーンと当たったこともあったわよ。 まあグリーンは気付いてたけど」
「え…」
初耳なんですけど……え、お兄様がレッド様と、バトル? お兄様が時々息抜きも兼ねて大会に参加しているのは知っている。 何でお兄様がブルーさんやレッド様の面識があるんだろうと思ってたら…… レッド様……ちょっと自覚が足りないのではと感じてみたり。 (本人には絶対に言えないけど!) でもバトルしているレッド様は、すごく楽しそうで。 ああ、本当にポケモンやバトルが好きなんだなって分かる。 王女様も誕生日にレッド様から頂いたピカチュウがいるけど、傷付くことを恐れる人くらい優しい方だから。
「お兄様から伺いました、ブルーさんも強いんですよね」
「レッドほどじゃないけどね。 そうだ、今度バトルしない?」
「わ、私はいいです!弱いですし……ピチューが私のために怪我するのは嫌ですから…」
「―――レッドとレモンが戦ったら、レモンに勝てない気がする」
「?、何か言いました?」
「いえ、何も」
「おーい、ブルー!」
私をからかうようにクスクス笑うブルーさんを呼んだレッド様がこちらへ向かって来ているのが分かった。 よく見れば、ステージの上にいるのは別の人で。 もうバトルが終わったんだ……ちょっと早くないですか?
「あら、もう終わったの?どうせ勝ったんでしょうけど」
「まあな……あれ、レモン?」
「こんにちはレッド様」
「ブルーが誰かと話してるのは知ってたけど、まさかレモンだったなんてなあ…… どうしてここにいるんだ?」
「今日は休暇を貰えましたので、少し買い物に。 それよりも一瞬目を疑ってしまいましたよ」
「城の中だとみんながバトルしてくれなくてさ。 外だったらオレのこと分からないだろ?」
「姿は知られなくとも、お名前は広く伝わっておりますから気を付けてくださいね」
「分かってるって。――なあレモン、もしこのあと暇なら…」
「……ごめんなさい。 もうそろそろ帰らなくてはいけませんので」
「…そっか、ごめん……」
「今日はお話できて楽しかったです。 もうこんな風にお話することは出来ないでしょうけど」
「何だよ?普通に話せばいいじゃんか」
「駄目です。レッド様は青の国の第一王位継承者で、私は黄の国の使用人ですから」
「……」
「では失礼いたします。ブルーさん、レッド様」
「またねレモン」
「あ、ああ…またな……」
これ以上レッド様を見ていられなくて、用事もないのに嘘をついてその場を離れた。 最後の言葉なんて、自分自身に向けたものだ。 レッド様は王子、私は使用人。 身分違いどころか国さえ違う、それに彼は王女様の婚約者。 政略結婚が孕んでいるとはいえ、お二人にとって関係ないし、それにお似合いだから。 忘れるな、私の存在は元々許されていないことを。 私は心に戒める。 忘れてはいけない、呪いの言葉。 本来ならばここにいることさえ、許されない。 お兄様も、王女様も、ブルーさんもみんな大好き。 レッド様もみんなと同じ好きのはずなのに…… (どうしてこんなに胸が苦しいの?)
「……見事にフられちゃったわねー」
「なっ、何が?」
「だってレモンのことが好きなんでしょ」
「!、別にレモンのことなんてっ」
「それだけ分かりやすくて隠してるつもり?」
「……」
「告白しちゃえばいいじゃない」
「駄目だ」
「なぜ?」
「あいつは使用人でオレは王子……周りがそれを許さない。 それにオレにはイエローがいる」
「――多分イエロー様も気付いてると思うけどね」
「それにあいつは他に好きな人がいるさ」
「?どういうこと」
「……内緒!」
(そう、オレは王子で) (君は使用人だから) (なんて線を引くオレは恐れているだけなんだろう)
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