「……この地方のポケモンで初心者に適しているものは?」
「…えっと、ヒトカゲとゼニガメ、あとフシギダネ」
「タイプは?」
「順にほのお、みず、くさ」
「ピチューが進化すると何になるか」
「ピカチュウに進化します。さらにかみなりのいしを使うことでライチュウに進化します」
「よし、さすがだなレモン」
「いいえ兄様、まだまだ力不足だと思います」
「…あまり力むなよ」
今日は夜に暇を貰ったので、久しぶりに家へ帰り、兄様にポケモン学を教えてもらっている。 侍女とはいえ、物知らずでは面子が立たないというもの。 なので時々兄様との都合が合えば見てもらっているのだ。 理数系も兄様の得意科目だけど、やはり一番はポケモン学。 お祖父様が、ポケモン学界でも権威のある博士として有名だから。 色んな国や地方へ講義やらで家には滅多にいない。 なので今家を守っているのは兄様とナナミ姉様。 顔を出さないと、あとから叱られてしまう。 ああ、勉強といえばこんなことがあったのを覚えている。 遠い昔、まだ幼い自分。 大切なあの人と一緒にいることが当たり前だった日々。
(失ってしまった) (無くしたことに恨むことも後悔することすらできなかった幼い私)
「ねえレモン、プリンの得意わざって何だっけ?」
「うたうとはたくだよ。イーブイの進化系は何種類だった?」
「最近発見されたタイプを含めて7種類!」
「ほう…なかなか勉強熱心ですなあ!」
「いえ、私より――の方が努力してますよ。オーキド博士」
「そうですか、それはそれは……そろって勤勉家とは…さすがですの」
「ボ…私よりレモンの方が努力してます!私なんか、」
「そんなことないよ!――の方がすごいんですから」
「それはレモンだって!」
「まあまあ…お互いに競い合って学んでいることは素晴らしいじゃありませんか」
「私、絶対に負けないもん!」
「私だって負けないよ!ねえ博士!」
「ハハ、そうですな」
まだ絶望というものを知らなかった私。 あの子と笑い合うことが当たり前だった日常。 人生はほんの些細なことでさえ、簡単に歪んでしまう。 その少し後に色々あったが、結果的にオーキド博士の養子として引き取られた。 もう彼女のことは私しか知らないけれど、忘れることのない大切な私の記憶。 悲しみは心の中に留めておけばいい。 そして私は今日も笑う。
「王女様、おやつの時間ですよ」
(些細な日常だって大切な思い出になる)
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