一年前に行われた婚約破棄の発表は、両国を驚かせた。
破棄の提案は黄の国から行われた、と言われている。


「このたびはまことに勝手ながら、レッド王子殿下とイエロー女王の婚約を破棄させていただきたく――…」


その裏にある真意を知って、レッドは複雑な思いを抱える。
彼がレモンを好きなことをイエローは知っていた。
(ブルーから聞いたらしい)
それに応援さえもしてくれていた。
自分とは婚約を結んでいる関係であるのに。


「レモンが幸せになってくれたらいいんです。
そうしたら、ボクも嬉しいから」

もし、ボクとレッドさんが結婚したとしても、間を取り持ちますよ?


自分のことではなく、他人に対して感情を得るところはそっくりな双子。
婚約は両国で行われた同盟の確かな証として組まれたもの。
今まで国のために、自分の将来に自由は許されない、と教えられた。
それはイエローも同じ。
だから婚約を組むのになんの意見もなかった。
それが王族の責務だから。
王族として成すべきこと……国の繁栄、そして安定。
それをイエローは自ら解いた。
理由は簡単、レッドにチャンスを与えるため。
レッドに踏み切りがつかないことに薄々気付いていたのだ。
その原因が、自分との婚約にあることも。
あの革命はレッドがいなければ、きっと成立していた。
青の国と黄の国の同盟は確かなものだと証明された。
だから両国の結婚という繋がりが必要でなくなったことも関係している。
表向きの理由はそうなっていた。


レッドは婚約解消された本当の理由に、イエローの気遣いに、なんとなく気付いていた。
同時に情けなくも感じたが、それは躊躇っていた背中を押すものになった。

つまりは、あのレッドが自分の気持ちを伝えると決意したのだ。





……そして、こうして教会に来てみたものの。
レッドはなかなか二人きりになる機会を得られずにいた。
彼女はいつも子供に囲まれている。
引っ張りだこなので、連れ出す機会を失ってばかり。
手を伸ばせば届きそうな距離なのに…もどかしい。
なんとか二人きりになることは出来ないのか。
そんなことをずっとモヤモヤしながら考えていたら、足元に子供が集まっていた。
どうやら相手をしてほしいらしい。
かわいいやつらだな、とか思いながらも近くにいた子の頭を撫でてやる。
……まあ悩んでいても仕方ない。
ぐだぐだと思考しながら、結局は勇気が出ないだけなのだ。
これじゃあ告白するなんて、夢のそのまた夢で終わってしまう。
それだけは避けたい。


「ねえお兄さん遊んでよー」

「…ごめんな、お兄さん今忙しいんだ」

「…なんだよー、じゃあいいよ。レモン姉ちゃんに相手してもらうから」

「!レモンだって仕事があるんだ、あまり迷惑かけるなよ」

「なんでだよ。レモン姉ちゃんはいつも遊んでくれるぞ」

「そんなの建前に決まってるじゃないか」

「ちょっと、一体どうなさったんですか」

「レモン姉ちゃん。兄ちゃんがレモン姉ちゃんのこと嫌いだって」

「なっ!?んなこと言ってないだろ!!」

「じゃあ好き?」

「あ、当たり前だ!」

「え…?あのレッドさ、ま…?」

「あっ…」


つい大人気ない会話をしてしまったことに反省していた思考力は、数瞬後に消え去った。
今脳内にループしている言葉は、ひたむきに隠し続けていたもの。
それをこんな雰囲気の欠片もない、こんなところでポロリと溢してしまった。
頭の中は真っ白。
今、自分は何と言った…?


「…あの、もちろん友達としてですよね?
友達でさえ、身分不相応ですけど…」

「レモン姉ちゃん、オレらはー?」

「もちろんみんなのことも好きよ」

「っ…違う!オレの好きは、友達としてじゃなくて…っ!!」


この際、全てぶちまけてしまえ――…
混乱した頭の片隅で、そんな考えがよぎったとき、友達であることを否定していた。
ヤケクソと言っても過言ではない。
顔を上げるのは、かなり恥ずかしかったが真剣なことを悟ってほしくて頑張った。
目の前には、顔を真っ赤にして口をパクパクしているレモン。
手に持っている桶を落としてしまいそうだ。
しかし自分だって、大差ない情けない顔をしているはず。
レッドは固唾を呑んで、レモンの言葉を待った。