今日も鏡の間と呼ばれる大きな広間で会議が行われている。
侍女である私が、中で何を討論しているのか知らない。
でも想像はできる。
どうせどれだけ国民から税金を巻き上げるかでも話し合っているのだろう。
この国の象徴たるイエロー王女様は、齢十三という幼さながらこの国を統治する権力者である。
私は彼女専属の侍女で、そして………

ティーポットと三時のおやつを乗せた配膳台を運んで鏡の間に行けば、会議が終ったらしく貴族や政治家がぞろぞろと出てきた。
うん、時間通り。
一礼し彼らを見送ってから鏡の間に入ると、残るは豪華な椅子に座る王女が一人。
何かに耐えるような表情を浮かべていた。


「王女様」

「…レモン」

「三時のおやつを持って参りました」

「ありがとう」

「……眉間に皺を寄せていらっしゃいますよ」

「――…私は、ボクはいつまでこんなことをしなきゃいけないんだろう。
ボクはこんなことしたくないのに」

「…駄目ですよ王女様、そんな言葉使いをされては」

「ねえレモン、ボクはみんなになんて思われてるのかな。
こんな……言いなりになっているボクのことを」


俯いて肩を震わせている王女様はきっと泣いているんだろう、心が。
……時々城下町に行く私はよく王女様の噂を耳にする。
でも決して良いものとはいえない。
彼女は「悪ノ娘」と言われて国民から嫌われている。
自分の好きなように振る舞い、税金を絞り取り、自分たちから少ない食料すら奪う極悪非道の王女。
しかしその真実は、貴族と貴族出身の政治家で構成される貴族院が政治を行っている為、まったく関与していない。
……いやさせてもらえないと言うべきか。
王女様はこの国の象徴とされ、貴族院からしたら体の良いお人形。
彼女自身も自分が進言しても聞いてくれないと諦めているので、彼らの思うつぼだ。
貴族院や大臣たち、他の側仕え達の前では感情を出さないけど、私の前では素直に打ち明けてくれる。
いわく、安心感を感じるからだそうだ。
それは私も同じなので、彼女が私を頼ってくれるのは嬉しい。


「もっと王女様が自信を持って意見をおっしゃられば、貴族院の方々も耳を傾けてくださいますよ」

「でも……」

「ほらそんな顔をされていては明後日のご生誕祭でレッド様にいらぬ気をかけさせてしまいます。
堂々としてくださいな」

「……うん、こんな顔じゃレッドさんに会えないよね。
ボク自信をもって言ってみる!」

「その意気ですわ。…でもくれぐれもそのような喋り方になられぬようお気をつけください」

「ご、ごめんレモン」

「私の前だから良いものの……他の人の前ではいけませんよ」

「うん」


進言すると素直に聞いてくれる王女様は優しくて、穢れのない美しいお方。
こんな一介の侍女である私の意見を聞いてくださる。
そしてこの国で誰よりも民に気をかけているのだ。
彼女ほど国を思い、憂える人はこの国にはいないだろう。
そんな彼女の傍にいるからこそ、様々なことを知っていながら手を出せないことが歯痒い。
例え世界の全てが貴方の敵になろうとも、私が守るから。
貴方はそこで笑っていて下さい。
貴方に涙は似合わない。