二年後、レモンはとある海辺の教会で暮らしていた。 イエローが成人し、即位するまでレモンはずっと側で支えてきた。 イエローはレモンに正式に王位継承権を戻そうとしたが、レモンがそれを拒む。 自分は過去に一度死んだとされる身。 それに今さら地位なんて望んでいない。 ただイエローの側にいれたら、充分だ……と。 譲らないレモンの堅い意志にイエローが折れて、相も変わらず使用人としてイエローの側に居続けた。 そして16歳の成人の儀を以て、イエローは正式に即位し、女王として君臨した。 それを機に、レモンはイエローの側を離れることを決意する。 今までイエローは不安だったが、きっと大丈夫。 自分がいなくても、彼女は立派に自分の務めを果たしている。 もう私は必要じゃない。
即位後程なくして、レモンはかねてよりグリーンに相談し、義祖父繋がりでベルリッツ家の経営する児童養護施設である教会で働き始めた。 それはレモンが初めて自立する、ということでもあっる。 イエローは勿論反対した。 彼女自身が離れたくないこともあったから。 そんなイエローに対して、レモンはこう言って説得した。
「いい加減にお互い依存することを止めなきゃ……ね?」
一生会えなくなるわけではない、と笑顔で言われたらレモンに甘いイエローに勝ち目はなかった。 長い沈黙ののち、イエローはようやく首を縦に振り、今に至る。 時にレモンでさえ変えることのできないイエローの意志のように。 数ある共通点の一つ、双子である証。 それが嬉しくもあり、複雑な気持ちでもあるとイエローは思った。
港での独り立ちは枷のなくなったレモンにとって、解放感に溢れたものであった。 これまで義務のようにさえ感じていた約束という重荷。 例え覚えているのが自分だけだとしても、それだけはどうしても破ることが出来なくて。 無理を承知で、戻ることを決意した。 これまでのように与えられることがなくなっても……例え軟禁された辛い過去を思い出すことになっても。
「私はイエローの側にずっといるよ!」
その口約束だけが生きる糧であり、支えだった。 イエローが私を覚えてなくてもいい。 誰?と問われても動揺しない、それがレモンの選んだ道だから。 約束を果たす為、使用人として耐えてこられた。 けれど解放された今、自分の好きなことができて、レモンは充実感に溢れていた。 静かな生活、当たり前の日常を大切なものと尊ぶことができる。 時折イエローに手紙を出すことも欠かさない。 自分の夢見ていた普通の生活。 けれどその日常に一つ、非日常のそれは。
「よっ、元気か?」
レッドがたまにこの教会へ顔を出すこと。
「レッド様……また抜け出されたのですか?」
「へへ、だってあんなのオレの性に合わないんだって」
「レッド様の性格でしたらそうなのかもしれませんが……身分をわきまえていただきたいものです」
「なんだよ、レモンまでブルーみたいに言うなって」
「言いたくもなります。 とやかく言うつもりもありませんが……ブルーさんにまた怒られますよ」
「平気だろ……多分」
「―――私は口添えしませんからね」
「!ありがとうな、レモン!」
この問答だって何度目になるのか…… よほどここが好きなのか、嬉しそうな笑顔を向けられて顔が熱く感じた。 隠すようにそっぽを向いて、籠の中の野菜を今日の夜に使う為、中に持ち入る。 レッド様は子供たちの中にいつの間にか加わっていた。 ……違和感がなさすぎる。 レッド様がどうしてこんなに頻繁に訪れるのか、私には分からない。 まあ、多分……子供好きだけなんでしょうけど。 それだったら青の国でも、広場に行けば子供がいるのに。 ここは不幸な境遇で親がいない子がほとんど。 余力がないからと、赤子の時に預けられた子もいる。 どの子も普段は明るいけど、心に傷を負っている子が多い。 もしかしたら境遇を傷んで顔を見せるのかもしれない。 ―――さすがレッド様、お優しいんですね。
レモンは知らない。 それがまったく的を得ていないことを。 レッドの目的は自分だというのに。 温くて、居心地の良すぎる今に、レッドは焦りさえ感じている。 このままでいいのかオレ?……いやよくないだろ! これ以上、今の関係に甘えるわけにはいかない。 せっかくイエローがくれたチャンスなんだ。
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