かくしてレッド様の口から全てが語られた。
彼が見ていないところまで知っているのは、多分兄様から聞いたからだと思う。
隣で静かにイエローも話を聞いていた。
すぐ目の前に、民衆の一番先頭で処刑台に近い場所にイエローがいる。
突き放す為に手を伸ばしたら届きそうなくらい。
でも体は固定されていて、首さえ思うように動かせない。
私は死を覚悟してたのに……イエローがどこかで笑ってさえいてくれれば、それで良かった。
けどイエローは違う。
誰かを犠牲に、ましてやレモンを身代わりにしてまで生きたいとは思わなかった。
グリーンから真実を聞いてからは殊更強く感じるようになった。
イエローの幸せを望むレモン、レモンを助けたいイエロー。
お互いの幸せを望むだけなのに、どうしてかくもすれ違ってしまうのか。


一方クリスタルは目の前で起こる状況の変化に戸惑うばかりだった。
王女だと思っていた人が使用人で、レッド王子と現れた本物の王女。
そして鏡合わせのようにそっくりな二人が、双子だったという真実。
王女は政治に関わっておらず、貴族が好き勝手していた事実。
困惑するクリスタルの肩をエメラルドが叩く。


「クリスタルさん、ここは一度時間を置いた方がいいんじゃないかな」

「……そ、そうね。一度みんなで話し合わないと……私だけじゃ決められないもの」

「うん、多分みんな動揺してると思う」

「王女の処刑を一旦中止!――…一度話し合いたいと思います」


野次も反対の声も上がらない。
他の人もクリスタルと同じ気持ちだったらしい。
そうしてレモンは、束の間ではあるが死を免れたのだった――…






処刑台から降ろされたレモンに、イエローが駆け寄る。
飛び込んできたイエローに思わずよろける。
拘束する鎖が鈍い音を出して擦れる様子に、レッドは眉を潜めた。


「レモン…っ、無事でよかった……!」

「イエロー……どうして戻ってきたの。
捕まって、最悪の場合は…」


そこまで言ってレモンは口を紡ぐ。
処刑という言葉をイエローの前で発することができなかった。


「…ボクはレモンを身代わりにしてまで生きたいとは思わない。
……双子のこと、レモンは知ってたんだね」

「――うん、だからイエローの傍にいたかった。
イエローが私のことを覚えていなくても、側にいるって約束したから」

「ボクとレモンが双子だって知って、わだかまりは消えたけど……ボクの中に記憶がなくて悲しい。
本当にボクたちは双子なの?」

「そうだよ。イエロー・デ・トキワグローブ」

「!、ボクの名前」

「王族にのみ知らされ、継がれる名前。
……レモン・デ・トキワグローブ。
それが本当の名前。
レッド様は兄様から聞いていらっしゃるでしょう?」

「あ、ああ……」

「…さあ泣かないでイエロー。
あなたがお姉さんなんだからしっかりしないと、王女様」

「……違う」

「?、イエロー…?」

「ボクはいつだってレモンに助けてもらってばかり。
一人じゃ何もできない……ボクとレモン、二人で一人なんだよ」

「……そんなこと」

「あるんだっ!
ボクはこれからもレモンと一緒にいたい。
だから……ボクの代わりになるだなんて、もう言わないで」


イエローに強く抱きしめられて、それだけイエローの思いの強さが伝わってくる。
……こんなに困らせるつもりはなかったんだけどな。
少し視線をずらして、処刑台を見上げる。
鈍く光る刃、首を据える台……そこに私がいたんだ……
そこにいた私を想像するだけで、恐怖で身が震える。
もし、イエローとレッド様が来なかったら。
――…私はもうこの世にはいなかった。
そう考えてたら恐ろしくなり、震えを誤魔化すためにイエローを抱きしめ返す。

本当は死にたくなかった。
もっとイエローと、兄様やみんなと一緒にいたい。
レッド様とお話しだってしたい。

隠していた感情が蘇って、私の胸をかき乱す。
目頭が、熱い。


「――オレもグリーンから聞いたときは驚いたよ。
そっくりだと前々から思ってたけど……双子だったなんてなぁ。
大丈夫、みんな分かってくれるさ」

「そう、ですね……わざわざレッド様まで。
まさかイエローと一緒に現れるだなんて思いもしてなかったです」

「オレもイエローと同じ気持ちさ。
こんな無茶は感心できない……レモンのことを大切だと思ってくれている人がいるんだ。
……忘れるなよ」

「――ええ」









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