「グ、グリーン?お前どうしてここに……」
「…ここに王女がいるとゴールドというやつから聞いた。 ちょっといいか」
「ああ、入れよ…」
扉の前にいたグリーンは何食わぬ顔で部屋に通されると、イエローの目の前に座る。 レッドは気になるのか、一つ空いたグリーンの横に腰を下ろした。 一緒イエローを捕まえるためかと思ったが、どうやら違うらしい。 グリーンは腕を組むと、静かに口を開いた。
「俺がここへ来たのは、王女に伝えたいことがあったからだ」
「ボク、にですか?」
「そうだ。率直に言う。
王女イエローと、使用人レモンは双子の姉妹だ」
「なっ!?」
「……えっ」
「イエロー様とレモンが!?」
「どういう、ことですか…!? ボクとレモンが双子って……」
「双子が災いとされている黄の国は、昔から双子の子を引き離していた。 それがお前たちも例外じゃなかった、それだけの話だ。 ただし、一緒に暮らしていた幼い頃の記憶は王女だけが消されているがな」
「ならレモンだけが覚えてたのかよ」
「ああ……双子である事実を上のやつらは揉み消したかったらしい。 本来なら外交の取引の道具になるはずだったレモンは、お祖父様の慈悲で養子になった…」
「……まさかレモンが、」
「グリーンさん……今までそれをずっと知ってたんですか、レモン…も……」
「あいつも俺も知っていた。 だからこそレモンは、あなたの側にいることを望んだ。 あいつは、幼い日に交わした約束を守る為に傷つくことを厭わず、な」
レモンは幼い日の約束を守ってくれていた――…
その事実はイエローを打ちのめした。 自分たちが双子だった事実には驚いたが、その記憶を消されていたことにショックを受けた。 自分だけが知らなくて、レモンはどれほど辛い思いをしたのだろう。 いつも笑顔で、ずっと側にいてくれたのはそれが理由だから?
「王女様、私と服を取り替えて頂けませんか?」
あの時、あんなことを言われるなんて思ってもみなかった。 レモンからお願いされたのは初めてだったから、叶えてあげたいと思って交換した。 でもレモンは自分が着ていた使用人の服じゃなく、この服を着てほしいと差し出した。 イエローが一生着ることがないような普通の服。 もちろんイエローは喜んで着た。 まさか着替えたあとに、レモンがあんなことを言い出すなんて想像すらしていなかった。
「この服なら逃げることができるでしょう」
「幸い、あなたの顔は知られておりません」
「タンスの下に隠し通路があります。 ここを通れば地下に出ますので、そこからドードリオでお逃げください」
「私は一緒には行けません。 王女は逃げていない、だってここにいるから」
「ピチュー、イエローをお願いね。必ず青の国まで」
「さあ、早く行ってイエロー!」
抵抗することも出来ず、隠し通路に押しこめられて何度も叩いたけど、ただ音が反響するばかり。 いくら名前を呼んでも、この時だけは返事が返ってこなかった。 ショックを受けるイエローの服の端を引っ張って、ピチューが先を促す。 仕方なく暗く深い隠し通路を、ピチューのフラッシュを頼りに降りていった。 そこから抜けた地下の出口にドードリオがいたので、レッドに助けを頼もうと必死に走った。 そして今に至る。
思えば、一度も名前を呼んでくれなかった。 だからあの時、名前を呼び捨てにされてどれだけ嬉しかったか… レモンが名前を呼ばず「王女様」と呼んだのは、自分の中で区切りをつけるためだったのか。 あるいは、名前で呼ぶと、がんじがらめにしていた気持ちとかが、全部溢れだしてしまいそうだからか。 それは本人しか分からない。
「レモンは王女にこのことを伝えることを渋っていたがな…」
「っボク今すぐに戻らないと!」
「オレも行くよイエロー」
「レッドさん……」
「今まであいつにばかり辛い思いをさせてきたんだ、これ以上悲しませたくないからな」
「レッド……」
「グリーン?」
「――レモンを助けてやってくれ」
「!、任せとけ!」
「行っちゃった……バカでまっすぐなんだから」
「俺は知っていたんだ。 暴動で騒ぎ立てる城内で、王女に扮したあいつがレモンだってことに…… 止めたかったけど、あいつの決意を知ってしまったから…出来なかった。 兄失格だと思うだろ」
「そんなことないわ。 立派なお兄さんだと思うわよ」
「そう、だろうか…… 今度こそ幸せになってくれよ、レモン……」
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