「ついに今日という日がやってきました。 私たちは、自分たちの手で国を変える! これ以上悪ノ娘の好きにはさせません、この剣に誓って!」
「いいぞぉ!クリスタルちゃん」
「悪ノ娘を倒す!」
「俺たちは王女を許さねぇ!」
積もりに積もった怒りをたぎらせて、ついに人々は立ち上がる。 烏合の彼らを率いるは、酒場の娘クリスタル。 数が圧倒的に多い革命軍に、緑の国へ進軍していた為にいつもより少ない王宮の兵士は次第に押されていく。 王女が捕まるのも時間の問題だった。 何日も続く怒声、侵略されていく城。 恐れをなした一部の者は逃げ出し始めた。 ここ最近イエローには部屋から出てもらわずにいた、が。 いつまでも隠し通せるものでもない。 部屋まで届く怒声に、イエローの部屋へ三時のおやつを運んでいたレモンは僅かに眉を潜めた。
騒がしい外をカーテンの隅から覗き見たら、その中に見知った顔があった。 名前も知らない人だったが、今は敵なのだという事実に、思わず口に出しかけた言葉を息と一緒に呑み込む。 それが顔に出てしまったのか、王女様が怪訝そうな顔をしたので笑みを浮かべて見せた。 王女様が紅茶を頂いているのを横目に、とうとう怖れていたことが起きてしまったと……少し目を伏せた。 幸い窓の近くにまで行かないと外の騒音は聞こえないので、必死に王女様を近付けまいと努力をしていたりする。 けれどそれも時間の問題。 いずれ気付かれてしまうし、民衆が城の中に傾れ込んで来るだろう。 ただ何となくこういうことが起きるだろうと、予測はしていた。 そしてそれが現実に起きた時、私がどういう行動を取るかも。 配膳台の下に置いている紙袋の中身が必要になる日が来るなんて、予想だにもしてなかった。
「……レモン」
「どうされました?」
「外から聞こえてくるのは……みんなの怒りの声、でしょう?」
「……何のことですか?」
「とぼけても無駄だよ。 全部分かってるんだ、みんなが怒ってボクを捕まえようとしてるんだろ?」
「……やはり気付いておいででしたか」
「嫌でも気付くよ」
嗚呼、王女様は私が思っていた以上に目聡い方だったらしい。 懸命に隠していたつもりだったんですけど…… 王女様は手に持っていたカップをテーブルの上に戻した。 飲まれていたかと思ったが、その実中身は半分も減っていなかった。 城下で起きている緊迫感が、ここまで伝わってくる気がする。 王女様を見ると、体が少し震えていらした。
「覚悟はしてたけどやっぱり怖い……こんな、何も出来ないただの子供のボクの側にいてくれたのはレモンだけだった。 すごく嬉しかったんだ。 …だけどこればかりはレモンを巻き込めない。 レモン、あなたは逃げて。 レモンはただの使用人でボクの唯一の友達なんだから」
「……私を友達だと、言ってくれるのですか」
「うん、ボクのたった一人の気を許せる使用人で大切な友達」
「勿体ないお言葉……しかし王女様はどうなさるのですか」
「ボクは……抵抗もしない。 こればボクの罪だから、それを受け入れるつもり」
「……優しいね、今も昔も」
「え?」
「いえ。ならば王女様一つだけお願いがあります」
「レモンからなんて珍しいね」
「最後のお願いです。私と、―――…」
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