最近この国の食料不足は、もはや深刻な問題にまで発展している。
今年はあまり雨が降らなかったためか実りも少なく、わずかな食料すら城に納めるので食べるものがない。
すでにこの城下町でも餓死者の骸がちらほらと見える。
ああ憎い、あの城が、あそこにいる悪ノ娘が!
食料も税金も私たちから搾れるだけ搾り取ろうとする自分勝手な王女。
噂ではやはり暴君のごとく我が儘三昧らしい。
私は許せない。
この国は疾うに腐敗しているも同然、誰かが国を変えなければ。
そう……私たち国民の手で!


「おーい、クリスタルちゃん」

「あっ…すみません。どうしました?」

「いやお代わり頼むよ」

「ちょっと待ってて下さいね」


私、クリスタルは城下町のしがない酒場の娘。
毎日色々な人と触れ合うけど、最近はやはり少しずつ人が減ってきている。
今が昼間とはいえ、一人しかいないお客に思わずため息をこぼした。
仕方ないわよね、みんな毎日生きることに必死なんだから。
せめて食べる物さえあれば、何とかなるのに……
考え事をしていた私の顔は変だったみたいで、お父さんに指摘されてしまった。
その時だ、表から声が聞こえてきたのは。
ここ最近表通りもめっきり人が少なくなったので、こうやって声が聞こえてくるくらい人が集まるなんて………まさか…
表に出ると中央広場でみんなが集まって人だかりを作っていた。
その中央にいるのは――…やはりあの人。
私はその人に駆け寄った。


「ああクリスタルさん。お久しぶりですね」

「こんにちは。……もしかしてまた」

「はい、今日も少ないですけど」


この人の名前は知らない。
自分の正体を知られたくないらしい。
高い声で女としか分からない。
いつも顔はフードで隠されていて、覗く金色の髪が綺麗だと思ったくらい。
ああ、でも一度私は顔を見たことがある。
配布を終えて私たち二人だけになった時、内緒ですと呟いてフードを外してくれた。
とても美しい女性……というより少し幼い少女といったところか。
彼女はたまに城下町へ来て、私たちに無償で食料を配布してくれるまさに女神のような人。
人に押されながらも、確実に一人ずつ食べ物を手渡してあっという間になくなった。
もう広場に人はほとんど残っていない。
こんなことをしてくれるなんて、一体どこの方なのかしら。
間違いなく貴族の誰か。
こんなに配布できるほど食料を持っているなんて、そのくらいの身分の人でしょう。
それか城に仕える者とか。
王女の悪逆非道ぶりに嫌気が差した……なんてね。


「これが最後です。クリスタルさんの分ですよ」

「いつもありがとう。でもこんなことしてたら王女様の怒りに触れてしまうわよ」

「…そんなことはあり得ません、また来ますね」

「ええ、本当に感謝してます」


その人は笑ってそのまま行ってしまった。
彼女にある話をしようと思ったのに……また出来なかった。
これはまだ数人にしか話していない、信頼のできる人にしか。
酒場で一緒に働いているエメラルドは喜んで頷いてくれた。
出来る事ならあの人にも参加してほしい。
敵には回したくない。


私たち革命軍の力で、この国を救ってみせる!







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