vol.5
気付くと、私はふかふかのベッドにいた。
隣を見ると、そこにはロイが寝ている。
「…えーと」
今は朝。
そして、昨日のことをいろいろと考える、と。なんとなく記憶が蘇る。もしかして、
「あー!」
口から出た叫び声。
それに気付いて隣にいる彼が目を覚ます。
「…起きたのか」
おはよう、と何の気もない彼の呑気な挨拶。
ああ…とうろたえる私を彼は気にも留めていない。
「私、もしかして…」
「うん?」
「私、もしかして……昨日、寝ちゃってた?」
ああ、ぐっすりとな、という相変わらず呑気な彼の返事に私はまた、はああ…とため息をつく。
「…せっかく、年越しだったのに…広場でみんなでカウントダウンしたかったのに…」
そう、今日は1月1日。つまり昨日は大晦日だった。
大晦日の夜はメインストリートや広場に屋台が出て、みんなでカウントダウンをして新年をお祝いする。
それを、やりたかったのに…。
ロイと一緒に行きたかったのに…。
昨日、夕飯のあと。
起きていられたら出かけようか、と言っていたのに。
今、ベッドで寝ているということは、つまりそのまま話しながらソファーで寝ちゃって、いつものように彼にベッドまで連れて行ってもらったということなんだろう。
「うう、楽しみにしてたのに…」
「一応声はかけたんだが、起こすのも憚られるくらい気持ちよさそうに寝てたから可哀想かなと思って」
それは申し訳ないんだけど、でも。
うう…と諦め切れない声を漏らす私に、ロイは微笑みかかる。
「また次があるだろ。待ち切れないだろうけど、来年行けばいい」
そう言われて、ぽんと頭を撫でられた。
ロイに優しくそんなこと言われちゃうと、そっか、と簡単に納得してしまう自分がいる。
やっぱり今回も、そっか、そうだね、という言葉が出てきた。
「…じゃあ、来年を楽しみに、今年もがんばる」
「それに、カウントダウンだけじゃないだろ。今年も二人でたくさん楽しいことをしよう」
彼の言葉に嬉しくなって思わず抱き付いた。
彼が隣にいてくれるなら、どんなことも楽しくなるから。
きっと今年もたくさん楽しいことがあって、その度に彼を好きだと思うんだろうな、なんて。
それは彼には言えなかったけど。
「…まずは、この後メインストリートまで朝食を買いに行こうか?朝も屋台は出てるだろ」
「…うん、行きたい」
それを聞いて、彼は満足そうにふふっと笑った。
なんだかいつも子ども扱いされている気がするけど、でも。ロイはそんな私のことが好きなんだから、お互い様だよね。
「…ロイ、ありがと。今年もよろしくね」
「ああ、こちらこそ。今年もよろしく」
今年も幸せな一年でありますように、願いを込めて。
2021.1.1-2021.4.30