vol.4
夜、目を覚ますと、隣にいたはずのロイがいなくなっていた。
どこに行ったのかな、と思って目を擦る。
すると、灯りも消えて暗い部屋の隅に彼を見つけた。
彼は部屋の窓から外を見上げていた。
その横顔が絵のように綺麗で、どきっとする。
「…ロイ?どうしたの?」
小さく声をかけると、彼は申し訳なさそうにこちらを見た。
「ああ悪い、起こしてしまったか」
星が綺麗だと、思ってね。
そう言って彼はまた空を見上げる。
私もベッドを出て彼の隣に立ち、空を見上げた。
「わあ…!」
空に輝く星々を見て、わたしは思わず感嘆の声を上げた。セントラルでも、こんなに綺麗な星が見えるのか。
意識して空を見上げたことなんてあまりなかったかもしれない。わたしの眠気は一気に吹き飛んでいた。
「俺もさっき同じ反応をしたよ」
ロイがわたしを見てくすっと笑う。
「…だって、綺麗なんだもの」
「そうだな。…秋はあまり明るい星がないから地味だなんて言われることもあるけど、その分全体が綺麗に見える気がして、俺は結構好きだよ」
情けなくも星や星座のことなんて何もわからないわたしは、黙って夜空を見上げる。
ロイが博識な人だということは知っていたけど、星のことも詳しいなんて。彼はなんでも知っているのかな。
「いろいろ説明してもいいんだけど、今、それは野暮かな」
優しく肩を抱き寄せられたので、されるがままになる。
うん、もうこれだけで幸せだもん。
「…教えて欲しい気持ちもあるけど、でも今こうしてるだけで幸せだから、…そんなに受け止め切れないかも」
正直にそう言ってみれば彼はそっと笑った。
「素直だな、君は」
「…いいでしょ、幸せなんだもの」
でも、ロマンティックなことを言うなら、君がアンドロメダで俺はペルセウスがいいかな、と呟いた。
どういうこと?と聞いても教えてもらえず、誤魔化すようにおでこにキスをひとつ。
ロイが言うならきっとロマンティックで素敵なんだろうなと思いながらそれを受け止めた。
次の日の仕事帰りに図書館に寄り、昨日彼が言っていたことを調べてみた。
図鑑を見て星座や神話を読んでみたら、確かにこれを自分たちに例えるのは恥ずかしい気がする。
意味を教えてくれなかったのは、自分で言うのは恥ずかしかったから、だったりするのかな?
そう考えて笑ってしまう。
いろいろと見ていたら、もう少しちゃんと調べてみたいな、という気持ちが浮かぶ。
帰ったら彼にこの話をしよう。そして、今度はいろいろ話をしてもらおう。
彼の解説付きで、二人で星空を見られるなんてすごく贅沢だ。
図書館を出て、太陽が消えてすっかり暗くなった空を見上げる。
星空なんていつもそこにあって、あんまり意識したこともなかったのに。
ロイといるとなんでも楽しくて、なんでも特別な思い出になる。
それは、世界でわたしだけの特権。
ああ、やっぱりこれって、すっごく贅沢なこと。
2020.10.1-2021.4.30