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どうぞ末長く甘やかしてね

彼の帰りを待ちながら、夕食の支度をしていた。

今日のメインはポトフで、具材を大きく切って煮込んでみた。チキンもたくさん入ってるからボリューム満点、のはず。

そんなに料理が得意じゃなかった私が最初に彼に作ったのがポトフだった。おいしいと言ってくれてすごく嬉しかったのを覚えてる。今思えばあれはお世辞だったかもしれないけど。

でもそれ以来、結構お手軽に作れるのもあって、私もロイもポトフをよく作るようになった。

ロイも料理は全然しなかったらしく、最初は四苦八苦していたのだけど、最近は二人ともようやく手慣れてきた感じがする。

そして、今日は特に何かある日ではなかったけど。なんとなくデザートにケーキを買ってみた。

帰り道にいつも通るケーキ屋さん。二人で食べたら楽しいかなあと思って、買って帰ることにしたのだ。

ロイ喜ぶかなあ、とわくわくしながら待っていると、ドアが開く音がする。
今日は大体20時前くらいかな、と言われていたけど、タイミングばっちりだったみたいで、それだけで嬉しくなってしまった。

玄関までのたかだか数歩程度の距離を待てないのも笑ってしまうけど。準備も終わったことだし、リビングのドアを開けて彼を出迎える。

もちろん帰ってきたのはロイで、その大好きな人の姿を見たら嬉しくなって、思わず抱き付いた。

「ロイ、おかえり!」

わ、と小さく驚いていたけどお構いなしで、ぎゅうっと腕の力を強くする。彼が頭の上で笑った声がした。

「…ただいま、名前」

頭をぽんぽんと叩かれて、顔を上げる。
私を見て微笑んだ彼を見て、ああ、好きだなあと思った。

「どうしたんだ、寂しかった?」
「うん、待ち切れなかった」
「随分嬉しいことを言ってくれるな」

そのまま一回、キスをされて。
ああ、うれしくて今ぜったい締まりのない顔してる、はずかしい。

思わず、ふふふ、と声が漏れてしまったところで、彼が、ああそうだ、と言う。

はい、と目の前に差し出されたもの、それは。
なんだか見覚えのある箱。

「…ケーキ?」
「ああ、そこのケーキ屋で買って来たんだ。あとで食べよう」

それは、まさに。
私が買ってきたお店と同じもので。

「あれ、ここのケーキ好きだったろ」

私が箱を見つめたまま止まっていたのを見たロイが、不思議そうな顔をする。

「…ううん、実は私も…」

そう言って、私は買ってきた箱をキッチンから取ってきて彼に見せる。

「ロイと一緒に食べたいなあと思って、これ」

彼は少し驚いた顔をしてから、私に聞く。

「ちなみに種類は?」
「…ショコラケーキ」

まさか種類も同じではないでしょう?と思って彼を見ると、今度は小さく笑って、同じだ、と言った。

その言葉通り、箱を開けたら二つの箱には黒いチョコレート生地に白い粉糖がかかったケーキが二つずつ。つまり見事に同じものが四つ。

それを二人で眺めていたら、なんだかおかしくなってきて、二人で笑ってしまった。

「なんで同じ日に、同じお店の同じケーキ!」
「なんとなく、名前はこれが食べたいかなって思って。当たりだったな」

ロイはなんだか得意げな顔をしていて、それもなんだかかわいくて。

確かにロイは、普段やってもらってばかりだから、とか言ってちょこちょこ食べ物、パンとかフルーツとかテイクアウトした料理とかいろいろを買って帰ってくることは多い。
ここのケーキを買って来てくれたこともあったし、二人でこのお店に行くこともある。

でもぴったり同じお店の同じものを二人で、同じタイミングで、なんて。そんなこと、さすがに。

「…気が合うね、私たち」

気が合う、という言葉で表現していいのかはわからなかったけど、とりあえず口からその感想が出た。それを聞いた彼はくすっと笑う。

「そりゃそうだろ、愛し合ってるんだから」
「…ふふ、そうだね。ロイ大好き〜」
「俺は真剣なんだぞ」

ふざけた口調でまた抱き付いてみたら、そんなに満更でもなさそうな顔をするのがかわいい。

「…ロイ、ありがと。二人で食べようって買ってきてくれたの、すごくうれしい」
「それを言うなら俺もだよ。ありがとう」

ありがとう、と言い合いながら、なんだかとってもにこにこしてしまう。

「…このケーキ、私はロイが買ってきた方を食べたいなあ」

せっかくロイが私のために、二人で食べようと思って買ってきてくれたものだから。私は彼が用意してくれたものを食べたいし、彼には私が買ったものを食べて欲しい。

「…もちろん。俺も名前が買ってきてくれたのを食べたいな」

しょうもないこだわりなんだけど。
どれも同じだろ、なんて言わずに、私のわがままをわかってくれる彼が大好き。

彼といるとすごく幸せで、おだやかな気持ちになる。
ロイのことが大好きだけど、それだけじゃない。ロイといるときの自分のことも好きだなあと最近すごく思う。

「はい、じゃあごはんにしよっか!」
「ああ、準備手伝うよ」
「ありがとう。ロイだいすき」

ほら、こんなことを言えばやっぱりまた照れたように笑うあなたが好き。

贅沢なお願いだというのはわかっているけど。
これからもこんな幸せが続けばいい。

これからも、ずっと。
どうぞ末長く甘やかしてね。


2021.3.8
title by 白鉛筆