vol.2
夜11時。
眠い目をこすりながら、わたしはダイニングテーブルに向かっている。
家にちゃんとした机というものは置いていないので、書類を書くのも、読書をするのも、このテーブルが机代わりになっている。
「がんばれ、がんばれー」
ロイは半分寝ながら、ダイニングテーブルに向かうわたしに声をかける。
わたしが格闘しているのは、自己申告書…という、この半年間の自分の業務成果や取り組みをまとめたもの。
半年に一回提出するものだから、そろそろ申告書の時期だなーなんて話にも出ていたのに。
昨日ロイに「そういえば自己申告書、まだ出てないけど大丈夫か?」なんて言われて、そこでようやくまったく何もやっていないことに気付いた。
提出期限は明日の午前10時。
というか受け取るのはこの、半分寝てる人、なんだけど。
俺が確認して人事局に提出するのはさらに3日後だから多少過ぎても平気だぞ、なんて言われたけど。
付き合っているからこそ、そういう仕事上のあれこれを大目に見てもらうのがいやなんだもん。
…付き合ってなかったら、お言葉に甘えていた気がするけど。
寝てていいよ、って言ったら恩着せがましく「見守ってあげよう」なんて言っていたのに彼はもう椅子に座ったままうとうとしている。多分寝てる。
疲れてるだろうから先にベッドで寝ててくれていいのに。
…でも、待っててくれるというその気持ちは嬉しい。
それから1時間くらいして、ようやく終わりが見えてきた。
こうやって振り返るといろいろあったなあ、なんて。
違法カジノの捜査とか、テロ組織の殲滅なんて大きなこともやったけど、普段は街の奉仕活動みたいなことも多い。
メインストリートの石塀が崩れて花壇が壊れたときは、それを直して花を植えなおして、なんて作業をみんなで手伝ったこともあった。
確かこのときはロイが女の子たちに囲まれて、たくさん差し入れとかをもらって、デレデレしていた。
「……」
あと、視察中、宝石店に強盗が入ってそれを捕まえたときは、ロイがその宝石店のすごい美人でスタイルのいい店主に口説かれてまんざらでもなさそうな、……。
なんかしょうもない思い出が多い。
もういいや終わり終わりと思って、書類を揃えてばん!とテーブルに置いたら、その音でロイが顔を上げる。
「…ん、終わったか?」
「終わりました!」
どうしたんだむすっとして、なんて言うから、別に、とかわいくない言葉を返してしまった。
それは気にせず彼はわたしの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「お疲れ」
「…はい。明日出します」
「じゃ、ベッド行こうか」
「行くけどもう寝るもん」
「えー」
「ロイだってもう寝てたくせに」
じゃあキスだけ、と言われてキスをされたら。
申告書を書きながら思い出してしまったいろいろは、いつの間にか消えていった。
…まあ、いっか。我ながら単純だけど。
二人でベッドに入って、おやすみ、と言い合ったら、すぐに寝息が聞こえてきた。
やっぱり眠かったんだよね。ロイだって最近忙しかったんだし。
待っててくれてありがとう。
そう呟いて、わたしも目を閉じた。
2020.5.9-9.30