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08

この前ハボックさんに誘ってもらって、彼のおすすめだというカフェでお茶をした。
本当にそれだけで、特に何かあったわけではないのだけど。
でも、すごく楽しくて幸せな時間だった。

彼の名前も知らなかったときからすると、本当に考えられないくらいの進歩で、夢みたいなことが起きているんだと思う。


その後も何回か一緒に出かけた。
ハボックさんはおいしいお店に詳しくて、行ってみたかった話題のお店も、わたしが知らない路地裏のお店も、彼と一緒に行った。

誘ってもらうばっかりでは申し訳なくて、わたしが好きなシフォンケーキと紅茶のお店にお誘いしたこともある。
こんなにおいしいシフォンケーキは初めてだ、と言ってくれた。

これをデートと呼んでいいのかわからないけど、ただの甘いもの友達、くらいにしか思われていないのかもしれないけど。
そのお出かけだけは数を重ねている。


明日も、二人で出かける予定。

ワンピースを新調して、いつもよりゆっくりバスタイムを過ごして、マッサージをして。
普段はしないピンクのマニキュアをうっすら塗ったら少しよれてしまった。これでも初めてハボックさんとお出かけしたときよりはうまくなった、と思うんだけど。

明日のことを考えてドキドキしながら準備をする時間。いつまでも慣れなくていまから緊張してしまっているけど、この時間が好きだった。

彼がわたしのことをどう思っているかはよくわからなかったけど、一緒にいられるだけで幸せだった。





次の日、ハボックさんと待ち合わせをした。

待ち合わせの瞬間、お互いを見つけるこの瞬間は何回経験してもどうしても緊張して、どきどきしてしまう。
早く会いたくて、でも緊張していて、姿を見つけたときの喜びもあって、きっとわたしはこの上なく顔が緩んでいると思うんだ。

今日は、わたしの方が先に彼を見つけて、ハボックさん、と声をかけた。
彼はわたしを見てそっと笑ってくれた。





「俺、本当はそんなにいつも甘いものを食べてるとかではなかったんだけど」

お店に入って注文をしたあと、彼が口を開いた。

「あのお店のお菓子は本当に美味くて、名前ちゃんと行ったどのお店も美味くて、楽しくて、ほんと、…よかった」
「…どうしたんですか?改まって、そんな」
「いや、いろんなとこ行ったなと思って」

誤魔化すように彼はそう言った。
なんだかいつもと違う、という気がした。
どうしたのかな、と思って彼を見たけど、表情からはよくわからなかった。

でも、届いたアップルパイを食べて、美味いと言っていた彼の笑顔はいつもと同じだった。

いつもとてもおいしそうにお菓子を食べて、純粋にその味に感動して、わたしよりいくらか年上とは思えないほど無邪気に喜んでくれていた。

やっぱり、わたしの気のせいだったかもしれない。
できたてのアップルパイを頬張っていたら、その違和感もいつの間にか消えてしまっていた。





わたしたちのお出かけは、そう決めたわけではないけれど、約束したお店に行ったら解散、となるのがいつもの流れだった。

汽車に乗るほど遠出をすることはなく、いつも行くのは市内のお店だった。
お店を出たあとは、歩きながら近くのお店を見てお話をする。そして、わたしの家まで送ってくれる。

家に着いたらじゃあまたね、と言われる。
引き止めることも、引き止められることもなかった。


今日も二人で歩きながら、ぽつりぽつりと話をする。
今度はこんなところに行ってみたい、とか。もう寒いですね、とか。そんなようなことをいつも話していた。

夕暮れ時で、道が赤く染まっていた。
寒くはない、ちょうどよい季節だった。

ふと、思い立って。
わたしは口を開く。

「ハボックさん、あの」
「…ん?何?」

しばらく二人で黙っていたので、彼はゆっくりと顔を上げてわたしを見た。

「…こうやって二人で、出かけられることができてとても楽しいです。いつも、ありがとうございます」
「うん、俺も。ありがと」

彼は夕陽のようなやわらかい笑顔を見せる。

「……ハボックさんは、何の意識もしてないかもしれないんですけど、…」

どき、どきと音を立てる心臓を押さえ付け、なんとか息を吸って、思いを言葉にする。

「…わたし、ハボックさんのことが好きです」

出会ったとき。転んだわたしに彼が手を差し出してくれたそのときから、本当はずっと。

恥ずかしくて顔を見れず、並んで歩きながら道に映る影を見つめていた。

「もし、…もし、よかったら、これからもこうやって二人で出かけたり、したいなって、……すみません、まとまってなくて」

付き合ってください、とか、恋人になってください、ということは言えなかった。これからも一緒にいられたら、という思いだった。
しどろもどろで、話はまとまってないし、言ってることもなんだかぐちゃぐちゃだった。

なんで今切り出したのかもよくわからなかったけど、勢いで、口から出てしまった。
さっきお店にいたときの彼の様子がいつもと違って見えて、そんなことないと確認したくてわたしは今こんなことをいったのかもしれない。

彼は迷惑だと言うだろうか、そんなつもりじゃない、と、言うかな。でも、もし許されるなら、これからもこうして、

「名前ちゃん」

ハボックさんがわたしを呼んだ。
わたしも顔を上げて彼を見る。

「…ごめん、もう、会えないんだ」

彼は悲しそうにそう言った。


2020.9.19