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07

彼女と約束した日。
昼過ぎに待ち合わせて二人でカフェに行く、それだけのことだが、これは立派なデートだ。

そこは、名前を誘ったあとになんとか探して、完全に後付けで見つけた店だった。
確かにケーキがおいしいらしい。特にチョコレートケーキが絶品、と聞いた。

メニューを見ながらどれもこれもおいしそうですね、と言って悩んでいる名前に、チョコレートケーキがおすすめらしいという話をする。ブラウニーが好きだと言うんだからチョコレートケーキも好きなのかと思ったのだ。

「でもこのレアチーズケーキも気になるんです…どれもおいしそうで、悩む…」
「…じゃあ、俺がチーズケーキにするから名前ちゃんはチョコレートの方にしたら?少しあげるから」

そう提案すると、じゃあ…と言って、その提案に乗った。
二つ食べてもいいんじゃないか、と言ってみたがそれは少し抵抗があるらしい。

店員を呼んで注文する。チョコレートケーキとレアチーズケーキを一つずつ。コーヒーを二つ。

そういえばブラックコーヒーを飲めるように練習していると以前言っていたが、練習の成果はどうなったんだろう。
そう思って聞いてみると、ブラックコーヒーが飲めないのを恥ずかしく思っているのか、また少し顔を赤く染める。

「…前より砂糖の量は減りましたよ!まだまだそのままでは飲めないですけど…」

その言葉通り、彼女は届けられたコーヒーに控えめに砂糖とミルクを入れた。前の話では、たくさん入れないと飲めない、と言っていたので量は減ったんだろう。

そんな話をしていると、チーズケーキとチョコレートケーキを店員が運んできた。
見るからに濃厚そうなチョコレート、サイズは小さいが食べ応えはありそうだ。レアチーズケーキと並ぶと黒と白の対比がきれいだった。

「はい、好きなだけどうぞ。フォーク刺しちゃっていいぞ」
「…ありがとうございます」

彼女はフォークでチーズケーキをひと口だけ切った。

「それだけでいいのか?」
「大丈夫です!ハボックさんもチョコレートケーキ取ってください」
「俺はいいよ、名前ちゃんの分が減っちゃうから」
「ええ、いいんですか?」
「欲しくなったら言うよ」
「…じゃあ、いただきます」

わくわくとした顔で、彼女はチョコレートケーキにフォークを刺して丁寧にひとくち取り、口に入れた。

「…おいしい!」

よかった。それを見てから自分もチーズケーキを食べた。微かにレモンの風味があり、さわやかだ。

「チーズケーキもおいしい、チョコとは違ってさっぱりしてておいしいです」
「おいしいしか言ってないな」
「…だって。おいしいですよね?」
「そうだな、美味いよ」

随分と美味そうに食べるんだな、と名前を見つめる。
ケーキは美味かったが、それより彼女が喜んでくれている姿を見れたことが嬉しかった。

手を止めてそれを見ていると、名前が顔を上げる。

「…ハボックさん、食べないんですか?」
「名前ちゃん、すごく美味そうに食べるから」
「…は、恥ずかしい、もっとお上品に食べますね…」
「そーじゃないよ、可愛かったのに」
「…褒めてくれてるんですか?それ」
「褒めてる褒めてる、可愛いなって」

名前は顔を真っ赤にして照れていた。
ハボックは恥ずかしげもなくこんなことを言っている自分に驚いていた。





カフェを出て、二人で歩き出す。
最近、かなり涼しくなって歩いていても心地よい。

カフェに誘ったところまではよかったがこのあとどうするか考えていなかった。
とりあえず店を出て、道沿いの店を覗きつつあれこれと話しながら歩く。

時刻は16時過ぎ。
ディナーにはまだ早い時間ではあるし、カフェを出てまたお茶、なんてのもおかしいだろう。

彼女は今日、といっても一緒にいたのは数時間だけど、この数時間、楽しかったのだろうか。


「ハボックさん」

彼女が着ているワンピースが風に揺れる。
おしゃれをして来てくれたようで、彼女もデートを楽しみにしていてくれたのかと思い内心はすごく嬉しくなっていた。

「今日は、ありがとうございました。…すごく、楽しかったです」
「…俺も、楽しかった。付き合ってくれてありがとう」

名前も緊張していたようだったけど、楽しかったというのは、おそらく嘘ではないと思う。

「…また、誘ってもいい?」

すっとその言葉が出てきた。
名前は頷いて、はい、ぜひ!と言ってくれた。



結局、今日は彼女を家のそばまで送って解散となった。

ちょっとお茶をして、話をして、ただそれだけだったけど。
店では自分が客でも彼女は仕事中だ。こんなにゆっくり話すことはできない。

彼女はやはり口が上手いとか話好きとかそういうタイプではない。緊張しているだろうことも、何を話そうかとあれこれ考えているのも伝わってくる。

でも、そんな姿がまた可愛いなあと、思ってしまう。
デレデレしないように今日は気を付けたつもりだったがこれでは次も頑張れるかわからない。

また誘うと言ったのだから、また、美味しい店を探さなければならない。
でも、あの笑顔を見られるならそれもまったく苦ではない。

どうやら自分は思った以上に彼女に夢中らしい。
そう気付いて歩きながら一人で苦笑していた。


2020.9.15