02
店を離れてしばらく歩き出してから、ロイは口を開いた。
「知り合いか?さっきの子」
さっきの子、と言われて、さっき店の中で自分に話しかけてきた店員のことだろうとハボックは理解する。
「いや、知り合いっていうか、この前、あの店の前で重そうな袋を運んでて、それで転んじゃってたんですよ」
ハボックは思い出しながら話し出す。
かわいらしいイメージのある洋菓子屋だけど、結構大変な仕事なんだなと思ったのを覚えている。
「ほう、それで手を差し伸べて抱き起こし、荷物を代わりに運んでやり、名前と連絡先を聞いたのか。やるな」
「…いや、起こしてあげただけっス…」
感心したように頷いていた上司は、一転して「だからお前はダメなんだ」とでも言いたげな顔に変わる。
そうか、自分じゃなくこの人があの出来事に遭遇していたら、一回でそこまで話を進めていたのか…と今度はハボックが感心していた。
「ああでも、お前の好きなタイプじゃなさそうだな。だってあれだろ、お前ボイン好きだろ」
「大好きっス、ボイン…」
いつもそういう女性ばかりを好きになっているということを、ロイも心得ていた。
それを思うとさっきの女性は確かにハボックのタイプではないのだろう。
「でも、純真そうで可愛い子じゃないか」
「だめですよ!大佐が手を出したらなんか犯罪って感じがします、並びが」
「失礼な奴だな。手なんか出さないよ」
――だって、あの子はお前をあんなにきらきらした目で見ていたじゃないか。なんで気付かないんだ、こいつは。
自分は一瞬見ただけで、それがわかったというのに。
ロイはため息をつく。
「だからお前はダメなんだ」
「いきなり悪口!?」
「女運がないというか、鈍感なんだ、鈍感」
「ええ…」
いきなり罵倒され、ハボックは困惑する。
ロイはあまりにもふがいない部下を持つことに頭を抱える。
「とりあえず次行ったときに名前を聞けよ」
「…大佐、名前知らないスか?」
「女性に名前も聞けないような腰抜けじゃ恋人なんてできないぞ」
「…はい…」
本人のタイプとは違うかもしれないが、意外にお似合いなんじゃないだろうか。
ああいうタイプの女性は、好きになったら一途で、きっと尽くしてくれるはずだ。ハボックもそんないじらしい彼女を大切にする、…と、ここまで来たらただの妄想だが。
ハボック自身もあまり意識していないようだし、これはなかなか長期戦になりそうだ。
部下の幸せを願っているロイは、この恋を応援してやろうと固く決意する。
決して面白がっているわけではないのだと、神に誓おう。
2020.5.20