vol.3
「…こんなに、買ってきてくれたの」
一週間ほど出張に行っていたロイが久しぶりに帰ってきた。
たくさんのおみやげと共に。
「寂しい思いをさせたお詫び、だからな」
仕事から帰ると家で私を待っていたのは大好きな人。
そして、テーブルに所狭しと並べられたおみやげ。
渋そうな赤ワイン、それと同じ種類の白ワインが2本ずつ。おっきなチーズ、ハム、ピクルス漬け、ソーセージ、マッシュルーム、粒マスタードとケチャップのセット…このあたりは完全におつまみだな。スイーツ系だとチーズケーキ、ブルーベリー、チョコレート、とか。
「これはしばらく、買い物に行かなくてよさそう…」
というかこれをどうやって持って帰ってきたんだろう。そもそも旅行じゃないんだから、こんなに買ってていいの?と思いつつ、それぞれどう使おうかな、と頭の中で組み立て始める。
じゃあ今日の料理は、チーズとソーセージをおつまみに、マッシュルームをアヒージョにしたらワインに合うはず。あとオニオンスープを作って…。
「今日は俺がやるよ。というかもう準備してる」
「でも、疲れてるでしょ?ゆっくりしてていいのに」
「お詫びって言っただろ」
いいのかなあ、とは思ったけど。
言い出したら聞かないし、寂しい思いをさせられたのは事実、なので。お言葉に甘えちゃおうかな。
「バスタブにお湯を張ってあるから、先にどうぞ」
「…なんか、至れり尽くせり…本当に疲れてない?大丈夫?」
「帰ってきたのは昼頃だし、明日から2日間休みになったから」
そう言うロイの顔は、確かに思っていたより疲れてはなさそうだった。
というかなんか楽しそう。料理そんなに好きだったっけ。出張が終わって嬉しいのかな。
「じゃあ、それなら…ありがとう」
「でも、その分」
「その分?」
「今夜は寝かせないから」
彼の言っていることを一気に理解して、顔が熱くなる。
「…そういう魂胆!」
「魂胆って酷いな。一週間も離れてたんだから寂しくなって当然だろ」
「いや、まあ、そうだけど…」
「楽しみにしてる」
にこにこと笑うロイにそれ以上の言葉はかけられず、私は逃げるようにバスルームに向かった。
さっきの言葉を思い出して、また顔が熱くなる。
私から、したい、なんていつも言えないから。
彼の方からああ言ってくれることに甘えているのは事実。
寂しかったのも、会いたかったのも、…彼に触れたかったのも、すべて事実だから。
ちょうどいい温度に調節された湯船に浸かりながらそんなことを考える。
「…よし、」
今日は、ちゃんと言おう。
寂しかった、会いたかった、…抱き締めて欲しかった、って。
そう決意してバスルームを出た私は、テーブルに料理やグラスを並べていたロイに抱きついて、彼をフリーズさせた。
そのままベッドまで抱っこされて、…落ち着く頃にはせっかく作ってくれた料理がすっかり冷めてしまっていた。
完全にタイミングを間違えたな、と反省しました。
…彼はご機嫌だったけど。
2020.7.1-12.31