黒王子は笑わない/3


彼女の足はまだガクガクと震えている。
城に辿り着いてもなお、なまえは“禁じられた森”でのガチガチの緊張状態が解けないようだった。
それでもリヴァイがそんな彼女の前に、すっと、預かっていた鳥籠を差し出すと、なまえは泣きべそのままほっとした顔で、ありがとう、本当にありがとう、と繰り返した。
受け取られた鳥籠の中では黄金に光るスニジェットが、つぶらな瞳でなまえを見上げていた。

「なまえよ、お前は悪運の強い奴だ。見てみろ。どうやらケトルバーンはまだ部屋にいねぇらしい」

暗いままのケトルバーンの部屋の窓を、リヴァイが顎で指した。

「リヴァイ、本当にありがとう・・・私、何てお礼を言ったらいいか、その・・・」

そう、本当にどれだけお礼とお詫びをしたらいいのだろう。確かにリヴァイの言う通り“悪運がいい”といえばそうなのかもしれないが、彼は初めてまともに話すような自分を蜘蛛から救い、そして逃がしてしまったスニジェットまで捕まえてくれた。
彼があの時彼女の元へ来てくれなければなまえは今も禁じられた森にいただろうし、杖と小枝を間違えたまま生きていたか死んでいたかも分からない。

「フン・・・スニジェットを捕まえるなんて今のクィディッチじゃ味わえないからな・・・いい経験になったぜ。後はさっさとそれをケトルバーンの部屋に戻してさっさとてめぇの部屋に帰る事だ・・・そろそろ見付かるとヤバい時間だろう」

“いい経験”というのは嫌味なのか、本心か、リヴァイは片方の口の端を上げそう言うと、ローブを翻し背中を向けてさっさと歩き出す。
ありがとうともう一度なまえはその背中に投げかけたが、彼は何も返すことなく、城へ入っていった。

――――黒王子。

リヴァイはここでは影でそう呼ばれている。
ある者たちは、孤高で得体の知れない、あのぶっきらぼうで尊大な態度に皮肉を込めて。
またある者たちは、成績優秀で史上最高シーカーと言われる彼に、憧れを持って。
これまでなまえはそのどちらでもなかったけれど、今夜、颯爽と自分を助けに現れた彼を純粋に王子様のようだと思った。
しかも夜にあの"禁じられた森"でスニジェットを捕まえるだなんて、

(彼って本当にすごい人――――あれ?そういえばリヴァイは何で"禁じられた森"にいたんだろう)

腕の中のスニジェットがコッコッ、と籠を噛む。
ふと過ぎった疑問もそこそこに、なまえはリヴァイの忠告通り急ぎケトルバーンの部屋へ向かうことにした。

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