きみが思うよりふつうです


「ホント?なまえさん彼氏いないんすか。そうか〜〜俺も彼女いなかったらね!残念!」

彼らの馴染みの店に珍しいゲストを迎え、大きなジョッキを片手に、呂律の回らないエルドが真っ赤な顔で管を巻いていた。

「すいませんね、なまえさん。こいつ泥酔するとこうなるんです。普段はこんなんじゃないんですけど」

グンタの言う通り、エルドは普段どちらかというとクールに見える方だとなまえは思った。
リヴァイ班の面々はなまえを迎え、誰もが楽しそうに酒を酌み交わしていた。

なまえが兵士たちのこうした宴席に招かれることはそんなに珍しいことではない。
彼女の小部屋の常連たちは彼女の存在にちょっとした癒しを感じていたし、男女問わずこうした場に誘われることは少なくなかった。
ただ、精鋭中の精鋭とも言われるリヴァイ班の面々がこうしてハメを外して酒を飲んでいる姿は、なまえにとっては面白く感じられた。

「兵長もさぁ、来れたらよかったのにね」

彼らの上官の不在を、ペトラがまたも嘆いた。

「お前ほんとに兵長好きだね。ま、俺も負けねぇくらい好きだけどな!!」

グンタは口をガバッと開けて陽気に笑いながら、向かいに座るペトラの肩をバンバンと叩いた。
リヴァイの座り方、飲み方を真似ているのだろう、オルオもニヤリと笑った。

「リヴァイ兵士長も、皆さんとこうしてお酒を飲まれる時は陽気になるんですか?」

なまえが尋ねると、一同は、はたとその動きを止めた。

「・・・そうだな、普段俺たちとこうやって飲んで、兵長って楽しいって思ってるんだろうか」

グンタはその白目の多いクリッとした目で上を見上げた。

「兵長はな、お前らのくだらねぇ話に付き合ってらんねーから黙って飲んでるんだよ」

やはりリヴァイの口調を真似て、オルオが言った。
そのオルオのみぞおちを隣に座るペトラが肘で打つ。
オルオはウッと低い声を上げた。

「お酒飲んでても普段とあんまり変わらないけど・・・楽しくなかったら断られるんじゃない?」

そーだな、とエルドは頷いた。

「やっぱり普段もクールな方なんですね。」

なまえがそう言った瞬間、4人は吹き出しそうな顔をした。
彼女はそれに気付き、取り繕った笑いを浮かべ、小さく首を傾げた。

「ほら、何で兵長ってこうモテるかね」

エルドはニヤニヤと笑った。
そういうわけじゃ、となまえは首と手を小さく振るも、4人ともが顔を見合わせて示し合わせたようにニヤニヤとしている。

「やっぱさ、強いし?クールっぽく見えるし?ミステリアスだし?カリスマだし?」

面白がるエルドに、ペトラも焚きつける。

「でもね、なまえさんが思う兵長と、実際は少し違うかも」

変な誤解をされていないかと焦り、目をきょろきょろとさせるなまえをペトラがいらずらっぽく覗き込んだ。

「兵長って、めちゃくちゃ口悪いんですよ。粗暴だし」
「うそっ、すごく硬派で、大人しそうな人だと思ってました」

なまえの言葉に4人は一瞬黙り、間を置いて、堰を切ったように腹を抱えて笑い出した。

「えっ、えっ、何かすみませ・・・?」

尋常でない周りの笑いように、なまえはあたふたして皆の顔色を窺った。

「硬派で大人しい・・・兵長が・・・大人しいだって・・・!!」

泥酔に加えての爆笑で、エルドは吐きそうな様子で息も絶え絶えに言った。
ペトラは、兵長に怒られるわよ、と笑い涙をぬぐって言った。

「・・・なまえさん、兵長と話したことないの?」
「はい、全然。ほとんど関わりもないし」
「・・・話してたらそのうち、「豚野郎」とか言われますよ」

穏やかでない単語を挙げてフフッとペトラが笑ったので、なまえは目を丸くした。
4人は面白がって、矢継ぎ早に話す。

「オマケに神経質で潔癖症」
「イラついて椅子の足をいくつも折ってる」
「足癖が悪い」
「昔は地下街の有名なゴロツキだったらしい」
「総督にタンカきってるのを見た」
「洗濯物は全部アイロン掛けて折り目正しく毎日たたんでるらしい」
「掃除をすると隅っこが綺麗になってるか指先でチェックしてくる」

彼らは口々にリヴァイにまつわるエピソードを挙げ連ねた。
なまえは思わず吹き出した。

「すっごく意外!誰からも英雄視されてるし、生きた伝説みたいな存在で・・・非現実的な存在っていうか・・・」
「でしょ?知らないでしょ?だからか兵長ってモテるんですよ!あっ、といっても、私はそんな兵長も好きなんだけど」
「何か、生活感があってほっとしました。人間味があって」
「そうそう、意外と可愛いとこあったりもするんですよぉ」
「か、可愛い・・・?!」
「お前らな、こんなこと話してて兵長が現れたら知らねーぞ」

女子トークにオルオが水を差した。
リヴァイはなまえにとってまだ全くの未知の存在で「人類最強の兵士」の印象が強く、4人に話されたような“人間味溢れる”彼の印象は新鮮に思えた。
そして、彼らに慕われる良き上官なのだろう、とも感じていた。


5人の宴会はその後もしばらく最高潮に盛り上がっていたが、その日は結局リヴァイは現れず、日付が変わる頃、散会となった。


 
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