ちいさな記憶



なまえは腕いっぱいに包帯やガーゼの入った紙袋を抱え、走っていた。

調査兵団が帰ってきたのだ。
負傷した兵士たちの手当てで十分用意したつもりの手当て用品が足りなくなり、新米看護士のなまえは街へ買出しに急いだ。

急いで帰らなければ。
なまえはもう、街から10分以上走り続けていた。

本部にやっとの思いで辿りつき、医務室へとさらに足を速める。

「あっ」

ふいに、すれ違った兵士と肩が触れた。

「すみません」

なまえがすれ違いざまに顔を見やるも、その兵士は黙ったまま、彼女とは反対方向へ歩いていった。

(・・・今、泣いてた・・・?)

医務室へ急ぐ足を緩めず、すれ違った兵士の一瞬の表情がなまえの脳裏に焼きついた。
無表情に近かったかもしれない。
ただ、その瞳はあまりにも暗く、絶望と、悲しみに満ちているように見えた。
まるで、世界の悲しみの全てを抱えているような。

(・・・ううん、涙は出てなかった)

だけど、泣いているように見えた。

今は考えている暇はない。
なまえは先へ急いだ。

すれ違った兵士の名はリヴァイ。
調査兵団の若き兵士長だった。




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