つれないのね




「あぁ〜すっごく気持ちいいです、なまえさん」

ペトラが気持ちよさそうに言った。

「ほんと?嬉しいです。」
「それから、何だかとってもいいにおい。何ですか?これ」
「このにおいですか?これはね、アロマオイルです。ペトラさんが少しでもリラックスできたらいいなって・・・」
「そうなんだ、何だかおしゃれですね」

なまえは微笑むと、タオルを掛けたペトラの背骨に沿って、やさしく指圧を続けた。

「ペトラよ、お前が望むなら俺がいつでもマッサージくらいやってやるんだぞ?」
「ハイ、セクハラ発言」
「遠慮するな。俺とお前の仲だろうが・・・」
「あのね、何度も言うけど、本当に全然兵長に似てないから。これ以上話すと、帰りに松葉杖蹴って転がしてやるわよ」

なまえはまぁまぁ、とペトラをいなした。
オルオは先日の負傷で片足の自由がきかず、松葉杖生活を強いられている。
今日は彼の定期健診で、優しいペトラはそれに付き添って医務室を訪れていた。

医務室の隣には小さな、なまえが専用で使わせてもらっている部屋がある。
調査兵団の壁内常駐の医療班に所属するなまえが忙しいのは、調査兵団が壁外調査から帰ってからのしばらくの間だ。
それから次の壁外調査があるまでは、彼女の職場である医務室はいわば学校の保健室のようなもので、怪我や体調の悪い兵士たちがちらほらとやって来るくらいである。
なまえはその空き時間を使い、疲れている兵士たちを癒す為にマッサージやアロマテラピーを習っていた。
最初は見よう見真似だったが、アロマオイルに関しては次第に自分で植物などを蒸留してオイルを作れる程になった。
医師にマッサージとアロマテラピーの有用性について相談すると、隣の空き部屋を使って君の好きなようにやってみてはどうかと進められ、それ以降、この小部屋で希望者に少しずつマッサージを施している。
なかなかの評判で、この小部屋を使うようになって半年ほどが経つが評判が少しずつ口コミで伝わり、この小部屋の存在を知っている兵士たちには、ここはちょっとした癒しの空間になっていた。
ペトラはなまえの小部屋の常連で、オルオの診察の帰りにこちらに寄り、今日もマッサージを受けていた。

「ペトラさん、私最近ね、アロママッサージもちょっと勉強してるんですよ」
「アロマオイルを使ってですか?」
「はい。まだまだですけど」
「うそっ、すごく気持ちよさそう。実験台でいいから、やってほしいなぁ」
「いいんですか?じゃあ、ぜひ。」

きゃぴきゃぴと楽しそうに話す二人を尻目に、オルオは手持ち無沙汰になまえの淹れたハーブティーを口にした。

「あ、なまえさん。今日ね、リヴァイ班で食事会があるんです。食事会って言っても、みんなで飲みに行くだけなんですけど。なまえさん、今日はもうお仕事終わりでしょ?よかったら一緒にどうですか?」
「ああ、それはいいな」
「こういううっとおしい男もいますけど」

はは、となまえは笑った。

「楽しそう。でも、お邪魔じゃないですか?」
「全然!みんな喜びますよ。グンタと、エルドと・・・兵長も」
「何だか、みんなと楽しそうにお酒飲んでるリヴァイ兵士長って、想像つかないです」

ペトラは笑った。

「きっと楽しいですよ。行きましょ!」

オルオもそれを促すように笑って頷いたので、なまえは「じゃあ、お言葉に甘えて」と返事をした。



小部屋を片付け医師と医務室の戸締りをし、外で待っていてくれたペトラとオルオと一緒に、なまえは歩き出した。

「もう少し行ったところで、そろそろみんな待ってるはずです・・・あっ、兵長!」

視線の先に、リヴァイが現れた。

「兵長、今日これから大丈夫ですよね」

ペトラが駆け寄りそう話し掛けると、リヴァイは近付いて来るオルオとなまえに視線をやった。

「いや、今日はいい。お前らだけで行って来い」

えっ、そんな・・・とペトラは食い下がった。

「おいペトラ、兵長はお忙しいんだ。無理言うな」
「・・・そうですね、すみません。もし来れそうなら、途中からでもいらしてください。お店は予定通りです。今日は、医務室のなまえさんも来られるんですよ」

リヴァイに話し掛けるペトラがふいに自分を見たので、なまえはリヴァイに小さく会釈をした。
リヴァイは、ああ、と応えるとそのまま3人を横切り、つかつかと歩いていった。

なまえは少し残念に感じた。
この間、オルオの付き添いで医務室に来ていた彼を間近に見てから、彼に対しての興味がそそられていたからだ。


ペトラは兵長が来ないなんて残念!と独り言のようにつぶやいていた。




 
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