あたたかいもの




リヴァイは目の前でティーカップを少し傾けると、その春の日だまりのような色をじっと見つめた。
それを飲むのはすっかり彼の夜の習慣になっている。
眠りに難のある彼にとってはお守りのような存在になっていたし、それを飲みながらゆっくり落ち着く時間は、彼にとってのちょっとした癒しになっていた。
こうした自分の小さな習慣をエルヴィンやハンジたちに知られたら、ゲラゲラと笑われてしまうだろうか。

明日から壁外調査を控え、こうしてゆっくりカモミールティを飲めることもしばらくないだろう。
そのやさしくてあたたかい味を、リヴァイはいつもより時間を掛けて、ゆっくりと味わった。

ソーサーの隣に置かれた巾着袋を、リヴァイはちらりと見た。
前回の壁外調査に出掛ける前、なまえにもらったものだ。
中には葉っぱのような形のアロマストーンと、アロマオイルの入った小さな瓶が入っている。
リヴァイは巾着を傾けアロマストーンをコトンとテーブルに出し手に取ると、そっとその手に握った。
手のひら大のその石は真っ白で、丸みを帯びたその形は握ってみると手に馴染む。
ふわりと微笑むなまえの顔が浮かんだ。

彼女との距離が少しずつ近付いてきたこの数ヶ月間が一緒に浮かんでくる。
なまえは不思議な女だ、とリヴァイは思った。
見かけはふわふわとして頼りないくせに、その心には太い芯が通っている。
そして少なからず、こうして他人には流されない質の自分に影響を与えている。

リヴァイはストーンを袋に戻すと椅子から立ち上がり、ジャケットの胸ポケットへ、その巾着袋を入れた。
何も変わらない、今まで通りの、壁外調査の前夜だ。
今夜は早く寝ようと、リヴァイはバスルームへと向かった。



 
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