悲しい程におだやかな




壁外調査に兵士たちが出かけると、調査兵団本部はすっかりがらんとした空気に包まれてしまう。
ここに残っているのは、怪我をした兵士たちと、事務仕事などを行うなまえのような本部付きの職員たちだ。
出かけた兵士たちはきっと今この時も、一瞬で生死が分かれるような次の瞬間を恐れながら、更なる補給ルートを作ろうと必死に任務に当たっている。
けれど、このがらんとした本部は平和そのもので、その空気はみじんも感じられない。

この期間は殆ど医務室も開店休業状態で、医務室として機能するよりは、残っている職員たちが医師やなまえを訪ねて遊びに来る回数の方が多いかもしれない。
なまえはこのゆとりある期間で医務室の備品のチェックと整理をして補充をしたり、ハーブを摘みに行きドライハーブを作ったり、アロマウォーターやオイルを作ったりして過ごしている。
彼らが帰ってきた時に、万全の体制で迎えられるように。そして、癒してあげられるように。

あまりにも時間がゆったりと、穏やかに過ぎていく。
元々は兵士を志そうとしていたのだから、その時間を過ごすことが歯がゆくもあるし、見知った顔たちが自分とは裏腹に自らを危険な場に置いて戦っていることに対しての罪悪感もある。

どうか、一人でも多く無事にここへ帰ってきてくれますように。

朝露に濡れたハーブを一人摘みながら、なまえは遠い南の空を見上げた。



 
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