いってらっしゃい




「そうだ、リヴァイ兵士長。忘れるところでした。お渡ししたい物があったんです」

なまえがそう言ったので、リヴァイはカップを口から外した。
彼女は机の引き出しを開けて小さな白い巾着袋を取り出し、彼に差し出した。

「これなんですけど・・・よろしければ」
「・・・何だ、これは」

リヴァイは手の上に乗せられたちょうど手のひらサイズの巾着袋をしげしげと見つめた。
中には何か硬い大きさの異なる物が2つ、入っているようだった。

「開けてみてください」となまえが言ったので、ちょうちょ結びを解き袋をひっくり返して、その中身を手の上に落とす。
小さな茶色い瓶と、白い、丸みを帯びた葉っぱの形の石のような物が出てきた。
ほのかに、よく知る香りがする。

「アロマストーンと、カモミールの精油です。2〜3滴垂らしておきました。3日くらいは香ると思います」
「これは・・・」
「あの、カモミールを気に入ってらっしゃるみたいなので・・・壁外調査でお茶を飲めない時でもあれば、代わりになるかと思いまして。小さいから持ち歩かれるのにお邪魔にならないかと思ったんですが・・・お邪魔になりそうでしょうか?」
「・・・いや」

リヴァイはそうか、と言ってストーンと小瓶を巾着に戻した。

「香りがなくなったらまた2〜3滴そのストーンに垂らしてください。本当にお邪魔にならなければ、必要そうであればお持ちくださいね。」
「壁外で安眠もリラックスもクソもないけどな」
「・・・あ!た、確かにそうですよね」

彼の言葉になまえはしまったという顔をして、どうしようというように目をキョロキョロと動かした。

「す、すみません」
「いや、貰って行く」
「そうですか・・・?無理はされませんように・・・」
「まぁ、いい気休めにはなるかもな」

リヴァイはそう言うと巾着を手に小さく笑ったので、なまえもほっとしたように笑った。
彼に受け取ってもらえて良かった、と彼女は心から喜んでいた。
実は彼とお揃いで「お守り」として、彼に心酔している新米女性兵士のゾフィーに同じ物を用意していたから。
出発までに彼女にそれをあげれば、兵長とお揃いなんてと彼女は喜び、ますますモチベーションも上がるだろう。


そろそろ戻るとリヴァイは席を立ち、ドアに手を掛けた。

「あの、リヴァイ兵士長・・・」

ドアを開けたまま、彼は振り返った。

「・・・何だ」
「お気を付けて。ご無事をお祈りしてます」
「・・・出発は、3日後だが」
「それまでにお話しする機会もなかなかないと思うので。いつも通りみんなと一緒にお見送りはもちろんしますけれど」
「・・・ああ」
「いってらっしゃい」

揺れるカーテンを背ににこりと微笑んだなまえの顔を少し見つめてからリヴァイは視線を外し、ドアをゆっくりと閉めた。


 
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