いいにおい




なまえが店に現れると、リヴァイ班の面々は目をぎょっとさせた。
いつもにこやかな彼女がどんよりとした瞳を重たげなクマの上に乗せている。
顔色も土気色だ。
顔には無理やり取り付けたような、口角を無理に上げたような笑顔を浮かべていた。

「どうしたんだなまえ、お前らしくない」

それに触れるのに戸惑っていた班員たちを尻目に、オルオが馴れ馴れしく言った。

「あ・・・すみません、ちょっと、昨日眠れなくて・・・」

正確に言うと、今日も、眠れていなかった。
細々と仕事をしているうちに、結局彼女は仮眠を取ることはできなかった。
家に一度戻ってシャワーを浴びなければ多少の睡眠時間は取れたのだが、これから出かけることを考えるとどうしてもシャワーを浴びてすっきりしておきたかった。
魂が抜けたように笑うなまえに、さっ座ってください!とペトラが隣の椅子を引いた。

「兵長、今日もお忙しいみたいで。でも、今日は後から合流されると思います」

なまえはそうですか、と力なく答えたが、そういえばリヴァイがいないなとぼんやり思った。
パチパチ、と彼女は顔を叩く。
そして、突然立ち上がった。

「皆さんすみません。元気です!オルオさん全快、おめでとうございます!この短期間で治されてしまうなんて、さすがオルオさんです!」

彼女は今まで聴いたことがないような力強く、大きな声で言った。
一瞬の間を置いて4人は大きく笑い、ジョッキを高々と上げた。

やっぱり、リヴァイ班の宴会は楽しかった。
泥酔したエルドが騒ぎ、グンタが茶化す。
オルオが調子に乗り、ペトラがつっこむ。
食べ、飲み、はしゃいで、盛大にオルオの全快を祝った。

宴もたけなわな中、酒はごく僅かしか飲んでいなかったものの、疲労のせいかぐるぐると酒が回った気がしたので、なまえは席を立った。
ぐでんぐでんに酔っていたペトラが付き添いましょうかと言ったが、大丈夫と言い、手洗い場へ向かった。
途中、裏口が目に入り、なまえは夜風に当たろうかと考えた。
ドアをそっと開けてみると、外の風はとてもすがすがしく、気持ちよく感じられた。
従業員の休憩用だろうか、ベンチが置かれていたので彼女はそこに腰掛けることにした。
そよそよと、風が彼女の髪をかすめる。
少しの酔いのせいか、町の明かりと喧騒がぼんやり感じられる。

(気持ちいいな・・・)

なまえは静かに目を閉じた。




リヴァイが店に到着したのは、ちょうどその頃だった。
店の裏手の道を歩いていた彼は、裏口のベンチに腰掛け居眠りしているなまえが目に入り、足を止めた。
柵越しに、声を掛ける。

「おい」

返事はない。
リヴァイは少し考えた後、柵を越えて彼女へ近付いていった。

「おい、こんなところで何寝てる」

う〜ん、となまえが顔をしかめたので、リヴァイはその腕を引っ張った。

「起きろ」
「はい〜〜・・・・・・」

返事とは裏腹に、彼女は全く目を開けようという気がないようだ。

「おい!」

彼が驚かすように大きく声を掛けると、なまえは一瞬ぱちくりとその目を開けた。

「あ・・・リヴァイ、兵士長・・・おつかれさまです・・・」

開かれた彼女の瞼はすぐに垂れ下がり、代わりに小さく開けられた口でふにゃふにゃと挨拶をした。

「あのな・・・こんなところで寝てんじゃねぇよ、てめぇは」
「しゅみましぇん・・・昨日から寝てないんです・・・」

なまえは目を開けようとしているのか、閉じた目をぎゅぎゅと小さく動かして答えた。
それでも眠気と格闘しているのか、頭を前後に大きく揺らしている。
リヴァイはとても面倒くさそうに彼女を見つめた。

「ちっ・・・あいつらも酔っ払ってやがるんだろうな」

なまえ一人をここに置いている状況から、彼は店の中の状況が容易に想像できた。

「面倒臭ぇな、さっさと立て」

ぐいっと彼女の腕を上に引っ張ると、なまえは力なくよろめいてリヴァイの肩に倒れこんだ。
ふわりと、石鹸と、彼女のコレクションのハーブかオイルの香りだろうか。花のような香りが香った。

「・・・ん〜〜〜〜。リヴァイ兵士長・・・いいにおい・・・します・・・ね・・・」

目を閉じて、真っ赤な顔のなまえが寝言のように言った。
自分の肩に頭を付けたまま眠ろうとしている彼女をそのままに、リヴァイは呆れたように小さくため息をついた。


(それは、お前の方だろ)



 
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