おいでよ自由の翼学園へ!2


見晴らしの良い高台に車を止めるとなまえはシートベルトを外し、ドリンクホルダーに置いていた、途中寄ったコーヒーショップで買った飲み物を口にした。
助手席に座るエレンはどきどきとした面持ちで同じように、コーヒーに口をつけた。
普段はコーヒーを飲まない彼が少し背伸びをしてなまえに買ってもらったそれは、やっぱり苦い。
けれど、朝起きてから、いや、昨日の夜からずっと落ち着かない彼をしゃきっとさせてくれるには、ちょうどいいような気がしていた。

「イェーガーくん、よく頑張ったね。本当に80点取れるだなんて思わなかった。しかも、こんなに早く。すごいね」

紙コップを手に、なまえはエレンに微笑みかける。

「めちゃくちゃ努力しました。その・・・みょうじ先生に、褒めてもらいたくて・・・」

エレンは蓋の付いた紙コップから視線を外せずに、真っ赤な顔で答えた。
2つめの言葉を言うのは、さすがに勇気が必要だった。
くすりと笑うとなまえは紙コップをドリンクホルダーに戻し、ハンドルにもたれかかるようにして顔を寄せた。

「ご褒美・・・本当にドライブで良かったの?」

意味ありげなその言葉と、流し目で自分を見つめ微笑む彼女に、はっとして紙コップから顔を上げたエレンは一気に血が上った気がした。

「・・・は・・・、あの・・・、みょうじ先生・・・、・・・そ、それって、どういう――――――」

何とか言葉を話しながらも、エレンは自分の口がまるで言うことを利かないように上手く動いてくれないのでますます動揺した。

「ふふ・・・イェーガーくん。ここは学校じゃないのよ・・・?あの街からこんなに離れたところじゃ、私たちのことを知ってる人だって、いないわ。だから・・・名前で呼んでほしいな、私のこと・・・。」
「・・・・・・・・・」

真っ赤な顔のエレンは何と返したらいいのか分からず、ただめちゃくちゃに熱くなった体をおろおろと小さく震わせた。

「イヤかな・・・?」

なまえはハンドルから体を離すと、今度はゆっくりと、助手席に座るエレンの方へと体を近付けてきた。
ドキン、ドキンとうるさい程に心臓が跳ねている。

「あ・・・あの・・・、オレ・・・僕も、そう・・・思って、ました。・・・なまえ・・・さん」
「“オレ”でいいわよ。だって、あなたは今ただのエレン・イェーガーっていう男の子で、私は今ただのみょうじなまえっていう女なんだから・・・」

にこりと笑うと、なまえはおもむろにエレンの太ももへ手を伸ばした。
さわ、と触れる彼女の手のあたたかさがゆっくりと伝わってくる。

「もう一度呼んでくれる?“なまえ”って・・・」

ゴクリ、とエレンは生唾を飲んだ。
間近にあるなまえの顔に、そして体に、全身からはおかしな汗が噴き出している。
意を決したように、エレンはその口を開き、彼女の名を呼んだ。

「なまえ・・・さん。・・・オレ、なまえさんのことが―――――」

だんだん、彼女の唇が近付いてくる。
エレンは呼吸を忘れてしまったように、熱い顔にぎゅっと力を入れて硬直した。

「エレン」

彼女が自分の名前を呼ぶ。
いつもの「イェーガーくん」じゃない、自分の名前を。

「エレン!」

もう一度、自分を呼ぶ声が聞こえる。
幸せだ。何度だって呼んでほしい。

「エレン〜!!」

?おかしいな。先生の声じゃないぞ。



はっ、と目を開けると、目の前にはミカサとアルミンがいた。

「エレン、やっと起きたの」

ミカサの言葉に、エレンはわけが分からず辺りを見回した。
いつもと変わらない自分の部屋だった。
自分はベッドに寝ていて、傍らにはミカサとアルミンが自分の顔を覗いている。

「な・・・何なんだよ、お前ら・・・」
「何って・・・今日、3人で勉強するって約束だったでしょ?」

こわごわアルミンが言った。
そういえば二人に、日曜日はうちで現代文を教えてくれよと頼んでいた。

「じゃあ・・・夢かよ、今のは・・・」

エレンは呆然とした後、残念そうに頭を抱えた。

「夢?」
「ああ、こっちの話だ。ほっといてくれよ・・・あ!」

一瞬で真っ青になったエレンが叫んだのと同時に、アルミンもはっとして、「下で待っていよう」とミカサに言った。
ミカサは表情一つ変えずにアルミンとエレンの部屋を出て行った。
ほっとしながらエレンは布団を少し持ち上げ、ため息をついた。
布団をかぶっていて良かった。
お年頃の男の子の寝起きを女の子に見られるというのは、いくら幼馴染でもまずい。

夢にしても、もう少しでいいところだったのに、とエレンは肩を落とすと、ベッドから起き上がった。
あれがほんの一部でも正夢になるように、とりあえず今日は成績優秀な二人に現代文をみっちり教えてもらわなければ。
エレンはパジャマを脱ぐと、ベッドに放り投げた。


back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -