茶の道は1日にしてならず3


車を停めるとリヴァイさんはサングラスを外し、同じブランドロゴがあしらわれているケースにしまうとそれをダッシュボードに戻した。
小さなリモコンを取り出しボタンを押すと、目の前の大きなガレージのシャッターが上がっていく。
リヴァイさんはそこへ一度も切り返すことなく車をバックでスムーズに駐車すると、「着いたぞ」と言い車を降りた。
手持ちの鞄を手に彼に従って車を降りる。
ガレージにはリヴァイさんの車よりも大きな高級車が1台、それからスポーツカーが1台停まっていて、さらにあと2台は停めることができそうなスペースがあった。
このガレージだけで既に私の家より大きそうだ。
私のトランクを下ろしたリヴァイさんはガレージの奥にある物置のような場所の引き戸を開けるとその中に入り、しばらくするとお色直しをして疫病対策のような格好をして出てきた。
頭と口元に布を巻き、テカテカとしたゴム手袋とエプロンと長靴を装着している。
手には銀色の細いノズルと、片方には同じく銀色の容器の取っ手が握られていた。

「おいバイ菌・・・そのゴミの入ったトランクを開けろ」
「えっ・・・ここでですか」
「家の外で除菌しなきゃ意味がねぇだろうが」

リヴァイさんはその容器に入っている何かで私の荷物を除菌するつもりなのだ。
冗談ではなく彼が本気であることがよく分かったので、私は自分にそのノズルが向けられる前にトランクを開けようと思った。
トランクは荷物をパンパンに詰めたせいか留め具が固くてなかなか開かない。
私はなんとかそれをこじ開けようとしばらくガタガタと留め具をいじっていたのだけど、リヴァイさんはすぐに痺れをきらした。

「さっさとしろ、グズ野郎」
「あの・・・留め具が、開かないんです」

チィッと大きな舌打ちをすると、リヴァイさんは私のトランクの前にしゃがみ、怪しげな道具を脇に置いてその留め具に手を掛けた。
傍目からもとても苛立っているのが分かるリヴァイさんは私のトランクの留め具としばらく格闘していたが、しばらくした時突然トランクが開いた。
正確に言うと、はぜた。もしくは、爆発した。
たぶん荷物をパンパンに入れすぎたせいで留め具がなかなか開かなくて、開いた瞬間に中に何とか収まっていた全てが飛び出した。
爆発した荷物は辺りに飛び出し、事もあろうに最後に入れたチーズ味のカールと履き古したピンクのショーツがリヴァイさん目掛けて襲いかかった。
カールはリヴァイさんの布を巻いた頬に当たり、軽やかな音を広いガレージにそっと立てた。
ピンクのショーツはリヴァイさんの同じく布を被っている頭にふわりと乗っかった。
リヴァイさんは唯一防御していない目元にひどく青筋を立ててわなわなと震わせると、「これは一体どういうことだ」ととてつもなく凄みをきかせて言った。
私は物凄い恐怖にただ怯えて答えた。

「すすすすみません・・・!ちゃんと洗濯したやつなんで・・・!」

リヴァイさんは頭に乗った私のピンクのショーツをゴム手袋をした右手で雑巾摘まみにし、そのまま地面に叩きつけた。

「そんなもん当たり前だろうが・・・!てめぇはパッキングすらまともにできねぇのか、このバイ菌野郎・・・菓子の袋くらい止めておきやがれ・・・!!」
「ひっ・・・す、すみません・・・!輪ゴムが部屋になかったんです・・・!!」

私は頭が膝に付きそうな程腰を曲げて謝り、命乞いをした。

「もういい、どけ!」

リヴァイさんは再び手に銀色の容器とノズルを取ると、勢いよくその怪しげな液体を噴射した。

「あ・・・あぁ・・・!」

私は小さく切なげな悲鳴を上げた。
散らばった荷物にもトランクにももちろんカールにも漫画にも、リヴァイさんは容赦なく液体を噴射する。
執拗に液体を噴射し終わると、リヴァイさんは用意していた大きなゴミ袋にすっかりグショグショになった荷物を入れていった。

「靴や鞄はその辺に並べておけ」
「カ・・・カールは・・・」
「食いたきゃ食え・・・貴様の腹なら死にゃしねぇんだろうな・・・尊敬するぜ」

さすがに私だって何かの液体でしっとりとした既に軽くはないカールなど食べたいとは思わない。
処理をどうしたらいいかと聞いたつもりだったのに。
私は仕方ないのでカールの亡骸を、リヴァイさんの用意していた別の袋に入れた。

それにしても私の荷物たちは得体の知れない液体を惜しみなく掛けられて無事なのだろうか。
こんな怖い人のおうちでこれから夏休み中あれこれビシバシと教わらなければいけないんだろうか。
濡れたカールの袋にそこらへんに散らばったしっとりカールを入れながら、私は少し泣きそうになった。


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