おいでよ自由の翼学園へ!1

「・・・もう、イェーガーくん。君は他の科目はちゃんといい点数も取れてるのに、何で担任の私の現代文だけいつも赤点なのかなぁ」

エレンはがっくりとうなだれて、自分の席の前に座る担任教師のなまえに大きなため息を返した。
中間テストで一人だけ余りにもひどい点数を叩き出した結果、エレンはなまえとのマンツーマンの補習を受けていた。
放課後の教室には眩しいほどの夕日が差し込み、窓の外からは部活に勤しむ生徒たちの元気な声が聞こえてくる。

(あーあ、マジかっこ悪ィ・・・。オレだってそりゃみょうじ先生の現代文でいい点数取りたいって・・・)

何を隠そう15歳の彼は、担任のなまえに密かな想いを寄せている。
学級委員に自ら立候補する程真面目で真っ直ぐな性格の彼が、彼女の科目で失態を犯し続けているのはエレン自身にとっても耐え難いことだった。
けれど、生まれてこの方国語には成績表でいい評価が付いたことはない。

(どうしてみょうじ先生は現代文教師なんだよ・・・)

エレンは半ばふてくされたように、25点と書かれた答案を見つめた。
平均点は60点。
彼の答案は何度見返したって25点だ。
彼の名誉の為に言いたいのは、エレンが現代文以外は赤点を取ったことがないということだ。
しかも彼は所属している剣道部では1年生ながら試合に出て活躍しており、中学の頃から全国レベルの実力を持っている有名な選手だ。
剣道部顧問で生徒指導の教師でもあるあの厳しいリヴァイが彼を一目置いているくらいだ。
本来ならば彼は文武両道と言ってもいいくらいなのだ。なまえの担当科目である現代文以外は。
それがなおさら、彼女の悩みの種らしい。

「オレだって・・・もっといい点取りたいですよ。努力だって、してるし・・・」

そう、エレンは想いを寄せるなまえにカッコ悪いところを見せたくないと、高校に入ってからは勉強時間を一番現代文に割いてきたつもりだ。
今回のテストに当たっても、幼馴染のアルミンやミカサに必死に現代文を教えてもらっていた。

「そっか・・・イェーガーくんは、頑張り屋さんだもんね」

なまえは小さくため息をつくと、どうしたものかと頬杖をつき、窓の外を眺めた。
エレンの志望は国立大だというから、まだ1年ではあるけれど一つの科目だけがここまで悪いと希望進路によって変わる2年生からのクラス編成に支障をきたす。
カーテンが揺れて、少し開けている窓から夕方の風がグランドのにおいを運んでくる。
なまえの綺麗な横顔を盗み見ながら、エレンは独り言のように、つぶやいてみた。

「先生が、その・・・何か、ご褒美をくれたら・・・。もっと、頑張れるかも・・・しれません」

彼女がエレンに視線を移すと、彼は耳を真っ赤にして下を向いていた。
その姿は何ともいじらしく感じられる。

「そうだね・・・何がいい?」

彼の既にどきどきとしていた胸が、なまえの穏やかで優しい声に余計に跳ね上がる。

「あ・・・あの・・・」

ごくり。
生唾を飲む音が先生に聞こえてしまったのではないだろうかとエレンは余計にどぎまぎした。
これは、とてもいいチャンスだ。
何をご褒美にしてもらおう。
今度の大会を見に来てもらって、自分のカッコいいところを見てもらおうか。
いや、そんなのはいつでもしてもらえそうだ。
それなら、図書館でも美術館でも何でもいい。先生に、どこかに連れて行ってもらうとか、先生の家に遊びに行かせてもらうとか――――――

「おい、エレンはまだか」

机を見つめたまま顔を真っ赤にしながらぐるぐると考えていたエレンは、リヴァイの声にはっと顔を上げた。
邪魔しないでくださいよリヴァイ先生、とつい口から出てしまいそうになった。
顧問のリヴァイが遅れたエレンをわざわざ教室まで迎えにやってきたのだ。
剣道部は県大会を間近に控えており、普段から厳しい稽古にますます力が入っている。

「あ、リヴァイ先生。部活ですよね。ごめんなさい、もう終わりますから」

なまえは席を立つと、リヴァイに会釈をした。

(何だよ、いいところだったのに)

エレンは悔しそうに大きなため息をつくと、25点と書かれた答案を机の横に引っ掛けていたリュックに押し込んだ。

「エレンはまた赤点か?みょうじ先生、落ちこぼれをあまり甘やかすなよ」

リヴァイは意地悪く笑った。
聞かれていたのか、とエレンは恥ずかしさの余りリヴァイの顔を見られない。
悔しいけれどこれ以上のおねだりはできそうもない。

「あ・・・みょうじ先生、じゃあ・・・。すみませんでした。今度は・・・もっといい点が取れるように頑張ります」
「イェーガーくん。ご褒美、また考えておいてね。ただし、80点以上取れたら。いい?」

エレンからすれば、実現は絶対不可能ともいえるような何と高すぎる目標なのだろう。
けれど彼は、弾けるような笑顔を浮かべた。

「・・・はい!オレ、頑張ります!!」

大きな声で返事をするとエレンはリュックを右肩に担ぎ、リヴァイの待つ教室の入り口へと元気に駆け出した。


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