やっぱりもう帰りたい


1時間家族に泣きついた結果、まだ都会人第一号と話をしただけだ、希望を捨てずに第二号にアタックをしてみるようにとあたたかくも力強い励ましを受けて、私はもう一度、都会に希望を持つことにした。
都会人第二号とは、先程私に都会の厳しさを教えてくれた隣人とは反対側の隣の部屋の人のことを指している。
おじいちゃんとおばあちゃんが用意してくれたお饅頭の入った紙袋を持つ手は既に震えていたが、私は希望を捨てずに、もう逃げないことにした。

「夜分にすみません。隣に引っ越してきたみょうじなまえといいます・・・これ、良かったら召し上がってください」

ドアが開き覗いた顔はとても穏やかそうな顔をした、ダンディーでカッコイイおじさまだった。うちの田舎なら確実に結婚している年齢なのだろうが、ワンルームの部屋に住んでいるのだから、きっと独身なのだろう。
反対側の隣人とは全く正反対のにこやかな顔に、私は心からほっとした。

「エルヴィン・スミスです。若いのに偉いね。わざわざありがとう」

これからよろしく、と言いながら受け取ったその笑顔に私は都会を信じて良かったと感動すら覚えた。
が、次の瞬間、私は目を疑う。
顔はカッコイイ。
背も高くて、物腰も柔らかいし性格も良さそ
うだ。
それなのに、視線を何気なく下げてみると、その人は上下グレーのスエットを着て、信じられないことに、上をパンツにインしている

「・・・!!!」

こちらこそよろしくお願いしますと泳ぐ目で震えながら挙動不審気味にそう答えると、私は部屋に逃げるように帰った。

まただ。
またスエットだ。
穏やかそうな顔をしているけど金髪だし、あの人もきっとチンピラかヤンキーに違いない。
しかも目も青かった。
さらに恐ろしいことには、あの人も上をパンツにインしていた。
一緒だ。あの恐ろしい見た目の隣人と、一緒だ。
グルになって私を騙そうとしているのかもしれない。
悪徳商法か、宗教か、まさか結婚詐欺・・・
やっぱり都会は想像していた以上に恐ろしい場所のようだ。
あんなに穏やかで物腰も柔らくてやさしいふりをして、あの人も反対の隣の人と同じだなんて。

私は部屋に戻るなり走ってものすごい勢いで携帯を手に取ると、ますますホームシックになるからもう今日は電話しちゃダメと言われていたので、涙目で母親にLINEをした。

“反対側の人もチンピラかヤンキーだった”
“ねぇ、上のスエットをパンツにインするのって普通なの?”
“隣の部屋の人両方ともださい”
“都会なのに”
“怖い人に挟まれてこれからやっていく自信がないよ”
“やっぱりもう帰りたい”

震える手でメッセージを送ると、すぐに既読マークが付いたので少しほっとする。
それなのに、直後母親から送られてきたメッセージは私を絶望させた。


“都会で流行ってるんじゃない?”



やっぱりもう帰りたい


おわり


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