茶の道は1日にしてならず5


ナナバさんが開けた障子の向こう側にはだだっ広い畳の部屋が広がっていた。
真ん中に真っ白でふわふわな布団が敷かれていて、そこにはうすい水色の寝巻を着て額に布を載せた坊主頭のおじいさんがいかにも病気然として横たわっている。
枕元、といっても、部屋が広いのでだいぶ離れたところにあるのだけれど、大きな床の間には高そうな大きな壷が飾られていた。
幾重ものデジャヴュを感じて、これは何とベタな光景なのだろう、と私は思った。
おじいさんはその重たい皺をぶら下げた迫力のある大きな瞳でじろりとこちらを見てゆっくり上半身を起こすと、ゲホゲホと二回咳き込んでから口を開いた。

「・・・君が、みょうじなまえちゃんか・・・。耄碌したワシの目ではよく見えんわい。もう少し寄ってくれるかの」

どうしようかとナナバさんの顔を窺うと、にこりと笑い、おじいさんの方に寄るように促された。
どきどきとしながら私はおじいさんに近付いていく。
寝巻を着ているのにもかかわらず、おじいさんには独特な迫力が感じられた。
何か歴史の重みのようなものをその背に従えているような。
布団のすぐそばにしっかりと正座をすると、おじいさんは立派な口ひげをたくわえた口を、悲壮感を持って動かした。

「老い先短いワシじゃ・・・あんたがここにいる間すら生きていられるか分からんが・・・。跡取り息子のエルヴィン、次男のリヴァイ、それからほれ、そこにおるナナバ・・・色んなことを見て習うといい・・・人生勉強して損することはないからの」

ほっほっ・・・と力なく笑った途端、おじいさんは激しく咳き込み始めた。
私がここにいる間すら生きていられるか分からないだなんて!
尋常じゃないおじいさんの咳き込み具合に私はおろおろとして、大丈夫ですか!?と体をさらに寄せた。
おじいさんは激しく咳をしながらすがるように私の手を両手で握る。
吐血でもするんじゃないかという勢いで。

「ナ・・・ナナバさん!救急車とか・・・!!」

障子の方を振り向いたとき、私は驚き目を丸くした。
ナナバさんはお父さんのこの緊急事態に、さっきの穏やかな微笑みをたたえたまま佇んでいたからだ。
お父さんがこんなに苦しんでるのに一体どうしてそんな平静にいられるの、と思ったとき、つうっ・・・と腕がなぞられた感触に、私はぞくりと肌を粟立たせた。

「!!!?!?」
「やっぱりピチピチギャルはいいのう〜」

何が起こったか分からずおじいさんに向き直る。
先ほどまで死にそうな咳をしていたおじいさんは、ツヤツヤとした笑顔で半袖から伸びている私の腕を撫で回していた。

「?!?!?!?」

私は目を白黒とさせておじいさん、撫で回される私の腕、ナナバさんを順番に何度も見た。

「ごめんね、なまえちゃん。父さんね、いたずらと若い女の子が大好きで・・・」

ナナバさんはやっぱり高貴に笑って、そこに佇んでいた。


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