「ベイビー、我慢しなくていいんだぜ?このカラ松、なまえちゃんの気持ちを受け止める準備はできている…さぁ」
「はぁ?!何ワケ分かんないこと言ってんの?!?」
「仕方ない照れ屋さんだ…さぁ、遠慮なくこの俺の胸に飛び込めばいい」
「えっ?話聞いてます??てゆうか日本語分かりますか???」
「照れる事はない、なまえちゃん、さぁ…さぁ!!」

会話が全く成立しない押し問答が続く中、キメ顔のカラ松は眉間に手を当て、もう片方の手を横に広げ足をクロスさせてなまえに迫る。
この数分間の自分のカラ松に対する何かの振る舞いが悪かったのだろうか。
何故こんな事態になってしまったのか、検討もつかない。
だからなまえは、一旦冷静になろうと思った。

「カラ松くんあのさ、私ほんとに…」
「何だ?本当になまえちゃんは照れ屋さんだな…遠慮しなくていいんだぜ」

キメていた痛ポーズを解くとカラ松は一歩、なまえに近付く。人差し指を徐になまえに近づけていくと、険しく皺の寄せられた彼女の眉間を軽やかにやさしく、トン、とついた。

「こ・ね・こ・ちゃ・ん」

――――スローモーションでカラ松の人差し指が彼女の額から離れていく。
その言葉と至近距離にある彼のうるさいキメ顔がひとしきり大鐘のように彼女の頭の中にぐわんぐわんと鳴り響いた後、なまえはしゃがみ込み、ウワーンと泣き始めた。

「ど、どうしたんだ俺の可愛い仔猫ちゃん…」
「神様ー!!同じ言葉を話してるはずなのに全く話が通じない人がいるんですー!!痛すぎてもうこっちがダメージ受けてズタボロなんですー!!もう本気で無理なんですー!!助けてくださーーーい!!!」

打開策のない状況についに耐えられなくなってしまったなまえは、神に助けを求め泣き叫んだ。
けれど無情にもカラ松にはその叫びが全く聞こえないようである。

「一体どうしたんだベイビー…腹でも痛いのか?俺にしてやれる事があれば教えてほしい…」
「オーケーー!分かった!!もー今すぐどっか行って!!お願い!!消滅して!!消えてなくなって!!!うわーーーん!!!」

さながら地獄絵図のごときこの混沌とした場所へ静かに分け入ってきたのはナナバだった。

「一体何の騒ぎ…?」

なまえはもう一生上げられないのではないかというくらいうずくまった彼女の膝に埋めていた頭を素早く起こすと、ナナバに駆け寄りその胸に飛び込んだ。
カラ松はやっとなまえが自分の胸に飛び込んでくると思い、ナナバの隣で優雅な動作で両腕を広げていたのだが。

「ナナバさん!!この人、ほんと頭おかしいんです!!話通じないし分かってくれないしまじで無理なんです死ねばいいのに!!!」
「こらこら、なまえ。そんな風に人のことを悪く言っちゃいけないよ。ほら、そんな怖い顔しないで。ね?可愛い仔猫ちゃん」
「…!!!!」

なまえはナナバの魔法に掛かったように、それまでの険しい表情がみるみるうちに乙女の表情へと変わっていく。
やがて頬をピンクに染めた彼女は虫も殺せないような清純な瞳ではにかみ笑い、「はい…☆」とつぶやくように返事をした。
その澄んだ瞳にはカラ松の毛の先すらも写っていない。

「フッ…なまえちゃんが笑顔になってくれて俺も嬉しいぜ…」

ナナバの胸に寄り添ううっとり顔のなまえはすぐ隣にいるカラ松の顔を見る素振りもなく「ありがとう」と答える。
すっと人差し指を天へ向かい差し出すと、カラ松は言った。

「ああ…今日もいい1日だった…こうして俺は世界のカラ松ガール達を笑顔にしていきたい…そうして世界に笑顔が溢れていく……センキューカラ松ガール…センキューフォーザカラ松ワールド…」

カラ松は満足げで不敵な笑みを浮かべ攻撃的な形状の独特なサングラスを掛ける。

「やれやれ…またどこかでカラ松ガールが俺を呼んでいるようだ」

彼女たちに背を向けると小さく片手を挙げて、歩き出した。

「フッ…アディオス、仔猫ちゃん」


終(わるのか)
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