えるびんさんと妖艶女子()の隠語話


細いカクテルグラスの脚に絡められるその細い指が艶かしい。
なまえは深紅の唇からゆっくりと手にしたグラスを離すと、静かにカウンターに置いた。
目の前に広がる東京の大パノラマは、ホテルの最上階にあるこのバーの自慢らしい。
薄暗い店内には酸いも甘いも知り尽くしたような顔をした男女がぽつぽつと肩を並べている。
横から覗く彼女の瞳には眼下に輝く夜景が映り込み、ますます美しく輝いていた。

「宝石のようだ」

エルヴィンは自身のグラスも同じようにカウンターに置くと、ふっと微笑んだ。
そうね、となまえが答えたので、エルヴィンはもう一度笑う。

「違う。美しい君の瞳がだよ、なまえ」
「ありがとう、エルヴィン。貴方の青い瞳こそ、いつも宝石みたいに輝いてて素敵よ。尤も、この夜景よりずっとギラギラしてるけど」
「…ギラギラしたのはお好みじゃないかな」
「好きよ。男性は情けないのよりギラギラした方がずっと好きなの」

流し目を作りなまえはニコリと笑う。
目の前の景色に視線を移すと、とびきり色っぽくため息をついた。

「こうして見ると、本当に綺麗ね。スカイツリー…」
「君には敵わないけどね」
「今まであまり興味無かったんだけど、やっぱり素敵。今夜あなたに誘って貰えて良かったわ」
「それは良かったよ、なまえ」

わずかに肩が触れ合っている二人の間に、エルヴィンはジャケットの内ポケットから取り出したカードをすっと差し出し、置いた。
“4115”
カードにはこのバーのあるすぐ下の階のものであるらしい番号と、このホテルのロゴが入っている。
カードの端を艶っぽい淡いピンクで彩られた指先でつう、となぞると、なまえはほんの少し、紅い口角を上げた。

「私のスカイツリーもなかなかの評判でね…なかなか通行許可が下りないと評判の君の素敵な海底トンネルにも気に入ってもらえると思うんだけどな」
「…さぁ…それはどうかしらね、エルヴィン。私の海底トンネルは気まぐれなの」

カードを弄ぶなまえの指先にエルヴィンは目を細めた。
彼女の華奢な腰に腕を回し、その耳にだけ届くよう、小さく甘く、彼は囁く。

「私のスカイツリーはそのフォルムの素晴らしさはおろか、何しろ634mだからね…高くて頑丈だと評判なんだ…。君の海底トンネルにも上手く侵入できると思うな。イルミネーションがないのは唯一残念なところだが」
「まぁ、素敵だわ。でも、高くて頑丈なだけじゃイヤ…侵入してから上手く掘り進めてくれなきゃ…ね」

二人の熱にあてられてか、エルヴィンのロックグラスの氷が溶け、僅かに音を立てた。
その美しい瞳をうっとりととろけそうに細めたなまえは、カードに触れていた手をエルヴィンの太股の上へそっと下ろす。
さわ、と勿体ぶるように動かされた彼女の手に、エルヴィンは満足げに微笑んだ。

「それはもう、満足してもらえるはずだよ。知ってるかい?スカイツリーの技術力といったら革新的と言われていてね…おかげで世界中からひっぱりだこさ」
「そんなに言われると期待しちゃうわ。あなたのスカイツリー…」
「絶対に後悔はさせないよ、なまえ…何たって、世界一の電波塔だからね」
「…あなたの634m…どんな眺めが見られるのかしらね。フフ…」

エルヴィンは自身の太股にじれったく触れるなまえの手に、彼の手を優しく重ねた。

「それは上ってからのお楽しみさ。最上階の展望デッキは今夜、君だけの為に貸し切りにしてある」
「困ったわ、エルヴィン。私は一旦最上階まで上ったら、山ネコみたいに暴れ回るのよ。あなたのスカイツリーは大丈夫かしら…」

彼女の言葉に水心を確信したのか、エルヴィンはその大きな腕でなまえの肩を抱いた。

「安心してくれ、なまえ。私のスカイツリーはそれこそ世界一と言われる耐震性を備えていてね…どんなにやんちゃなネコが私の上で暴れてもびくともしない」
「エルヴィン…あなたのスカイツリーったら、何て魅力的なのかしら。楽しみでたまらなくてよ…」
「私はやんちゃなネコ程大歓迎さ…どうやら今夜はお互い眠れなさそうだな、なまえ」
「…望むところよ、エルヴィン」

なまえはエルヴィンの肩にその小さな顔を寄せると、妖艶に微笑んだ。


完(^q^)
 
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