ちぇりばいさんと妖艶女子()その2*完結


「ヤッホー!!一緒に巨人の研究しない!?」
「あら,ハンジ。アレがツイてる巨人が見つかったら,いくらでも付き合うわ。
それに今日はバレンタインでしょ?殿方からのプレゼントを捌かなきゃいけないから忙しいの。じゃあね。」

ツイてる巨人・・・クソ滾るぜ!!!等と叫んでいるハンジに別れを告げる。
そう,今日はバレンタイン。
いつかの時代に,男性が意中の女性に贈り物を捧げ愛を告げるというロマンティックな日があったらしい。
娯楽のため,今の世に取り入れられている。楽しみの少ない壁内で,大切な1日だ。
私の妖艶さは,全兵団随一との呼び声が高い。
そんな私のバレンタインは,男達からの愛の告白をこの妖艶な体いっぱいに受け止める日なのだ。
だからと言って,誰とでも寝るわけじゃないのよ?イイ男としか寝ないんだから。

執務室に戻ると,深紅の薔薇とカードが。
“私の可愛い食いしん坊さん。甘いチョコは今夜。それまで,つまみ食いしないように・・・。”
「んもう!エルヴィンったら。ドロドロに溶かして巨人にしちゃうわよってね。
食べきれるかどうか心配だわあ・・・。」
全兵団随一の“わがままボディ”を持つエルヴィンからのプレゼントに,私の妖艶な体が疼く。
(そう言えば最近,エルヴィンといいリヴァイといい,様子が変だったわ・・・。
二人とも,私達には言えない重要な任務に就いているのね,きっと。)
疼く体を鎮めようと薔薇の香りを楽しみながら,窓の外に目を向ける。
若い男女の兵士が,愛を語らっているようだ。
(フフッ。初々しいのもいいわよねえ・・・。)

「おい,邪魔をする。」
「あら,リヴァイ!任務は終わったの?」
「あ?いや,その・・・待たせて悪かった・・・」
「(待ってはいなかったのだけど)重要な任務だったのでしょう?謝らないでいいのよ?」
バレンタインプレゼントとして貴族の豚に貰った最高級の紅茶を振る舞おうと,リヴァイをソファに招く。
・・・私,コーヒー派なのよね。

「いや,俺には謝る義務がある。この前,お前を傷つけちまったし・・・。これ,渡しておく。」
そう言って,目の前の男は可愛らしい包みと切り花を差し出した。
(ああ。この間の口喧嘩の詫びかしら?この人にもバレンタインの概念があったのね,フフッ。)
先日,私の(特に下の)おろし金について彼と口喧嘩になったのだ。
童貞相手に私の凄さを解らせるなんて,酷だったし烏滸がましかったと反省していたところだった。
「いいのよ,気にしないで?でも折角だから,有り難く頂戴するわね。ありがとう。」

「お前がずっと待ってたなんて気づきもしなかった。本当にすまなかった・・・。」
カチャリ。口を山の様に尖らせ満足げに紅茶を啜っていた男が,カップを置き私に告げる。
(??何だか話が噛み合っていない気がするのだけれど・・・)
「お前がウォール・マリアを守っているだなんてよ。しかし,お前仮にも兵士だぞ?
安易に壁を捧げたいとか壊してほしいとか言うんじゃねえよ。下手すりゃしょっ引かれるぞ。
俺とエルヴィンだけだったから良かったものを・・・」
お前は熱くなりすぎるのが玉に瑕だ。だが悪くない。と心なし頬を赤らめて宣う男。
リヴァイは元々結構喋る。そして,回りくどい。
「あの・・・ごめんなさい,全く話が読めないわ。ウォール・マリアはとっくに陥落してるはずだけど・・・」
「そのウォール・マリアじゃねえ。お前のウォール・マリアだ。守ってたんだろ,今の今まで。
だから,待たせて悪かったと言っている・・・」
「・・・・・」

「・・・。『(初めて)俺が進撃するまで,お前はお前のウォール・マリアは守る。俺に捧げたい。』
そうエルヴィンに言ったんだろ?それなのに,使い古しだとか言って傷つけちまっただろうが・・・。」
「・・・!!!」
(エルヴィン,貴方何て事してくれたのよ!最近,気まずそうにしていた原因はこれだったのね・・・!
今夜,覚悟しなさいよ・・・!!!)
「色々気を使ってくれているところ悪いんだけど,私のウォール・マリアとやらは,とっくに陥落しているわ。
もうズタボロよ?私が言っている事,解るわよね?」
なるべく冷静に,なるべく童貞(しかも拗らせている)のリヴァイを傷つけないよう細心の注意を払う。
色々と気を使っているのは私の方だ。第一,こんなあからさまな嘘に踊らされるなんて,貴方兵士長失格よ!

「なあ,もう良いだろ。妖艶ぶるのはいい加減やめねえか。お前は充分任務を果たしたんだ。・・・立派だったぜ。」
「・・・!!!妖艶ぶるですって!?ぶってるんじゃなくて,妖艶なのよっ!!!」
「だから,演技はもう仕舞いだと言ってるだろ。処女拗らせてるんじゃねーよ,全く・・・。」
その言葉とは裏腹に,慈愛に満ちた優しい眼差しで私を見つめるリヴァイ。
こんな眼もするのね,等と感心している場合ではない。妖艶な私にとって,矜持に関わる大問題だ。
(大体,拗らせているのは貴方でしょうよ!!皆の善意に支えられて,ぬくぬくと童貞を拗らせていられるのよ!?
ハンジなんかどんなに殴られても,童貞の「ど」の字も出さないのにっ!!)
怒りで私の妖艶な唇が震える。私の妖艶な瞼の縦線の本数がとんでもない事になっている事も鏡を見ずとも解る。
だが,皆の善意を無下にする面前のカリアゲ(いつもより急斜面)は全く意に介していない。

「なあ・・・一緒に人類,いや男と女としての活動領域を広げる・・・か?」
「・・・・・」
妖艶な私は,今まで数あまたの男に誘われてきた。これほどまでイケてない誘いがあっただろうか,いや無い。
(妖艶な私がこれ以上活動領域を広げたらどうなっちゃうと思ってるのよ!?貴方と一緒にしないで頂戴!)
「俺達が踏み出そうとしている一歩は,非常に大きな一歩だ。焦ることねえよ,ゆっくり準備していけばいい・・・」
そう言って,ゆっくりしすぎた結果未だに童貞である人類最強は,何歩も先を行く私の頬を撫でる。
いつの間に隣にいたのかしら。私の妖艶な背中に悪寒が走る。
「エルヴィンには,俺から詫びを入れておいた。男ってのはな,図体がデカイほど気が小せえんだ。
もう傷つけてやるなよ?」
一体何を詫びたのか。さり気なくエルヴィンを貶すのはやめて頂戴!
そう言ってやりたいが,虚無感がこの妖艶な体を襲い言葉が出ない。同じ人類なのに全く話が通じない。
「俺達は兵士だ。だから,俺の心臓をお前にくれてやる事は出来ねえ。
だがな,俺にだって大事なものをくれてやりたいって気持ちはあるんだぜ・・・。」
「・・・・・」
拗らせた童貞だと知らなければ,私の妖艶な花園が最高に濡れちゃう台詞を吐くリヴァイ。
しかし,残念ながら,彼が拗らせた童貞である事を私は知っている。

「また来る」
そう言って,再び私の頬を撫で立ち去るリヴァイ。再び私の妖艶な背中に悪寒が走る。
虚無感に包まれた妖艶な体を引きずり,窓の外を眺める。
新兵が,バレンタインなんてクソだ!チクショウ!と何やら包みを放り投げ泣き叫んでいる。
「あれは,ジャン・キルシュタイン・・・。貴方,童貞ね。ねえ,ジャン。貴方は拗らせたらダメよ?」
私の願いがジャンに届きますように・・・。
ソファに妖艶な体を委ね,ふとリヴァイからのプレゼントを見る。
(アセビなんて珍しいわね・・・。内地まで買いに行ったのかしら?花言葉は確か・・・)

「あっ・・・」

おわり。
(消しゴムから愛を込めて・・・)

アセビ:この身を捧げます
 
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