悪ノリえるびんさん、ちぇりばいさんと妖艶女子()その1


「何となくやる気が出ないなあ・・・」
私は,エルヴィン・スミス。調査兵団団長を務めている。
ご婦人方からは,調査兵団の活動ではなく,私の“わがままバディ”が注目の的となっているようだ。
昨晩は,調査兵団,いや全兵団随一の妖艶なあの子と「大根の収穫祭☆」と題して年甲斐もなく盛り上がってしまった。
おかげで今日は,仕事が手につかない状態である。

(何か騒がしいようだな。どうせ,リヴァイとハンジが喧嘩でもしているのだろう)
「チッ!あの大根おろし野郎,とんでもねえ下品な女だ!!」
「・・・リヴァイ。扉を蹴破るなといつも言っているだろう。紅茶で良いかな?」
自分で言うのも何だが,私は見た目通りの紳士なのだ。
だから,元ゴロツキでどんなに童貞を拗らせた奴が相手であっても,ウェルカムティーを用意する。
「あの女,『私のおろし金はどんな野菜だって一瞬でおろせるのよ,特に下のおろし金はね。見くびらないで頂戴!』
だとよ。意味が解らねえ・・・。」
瞼に無数の縦線を描き険しい顔をするリヴァイ。私の執務室の窓から覗く穏やかな天気とのコントラストが凄まじい。
「(喧嘩の相手はハンジじゃなかったのか)・・・何故言い合いになったか聞いても?」
私は手早く紅茶を用意し,面前で凶悪なオーラを放つ男,リヴァイの差し出す。
「あの女が,お前の大根が最高だとか何とか気持ちわりい事ぬかすから言ってやったんだ。
てめえの使い古したおろし金で,すり下ろせるブツがあるわけねえだろってな。そうしたら,キレやがった。」
エルヴィンよ,女の趣味がクソ最悪だぞ。と悪態をつきながら口を尖らせ紅茶をすするリヴァイ。
リヴァイには悪いが,私のスミスを男を知り尽くした彼女に誉められるのは良い気分である。
「団長であるお前が,あんな変態と関係を持っていること自体が,兵団の士気に関わると思うんだがな。
あの女が巨人を嫌う理由知ってるか?『アレがツイていないんだもの』だとよ。クソ眼鏡以上の変態野郎だぜ。」
「ハハ・・・。理由はどうあれ,討伐数に結びついてるんだ。彼女はとても優秀な兵士だよ。」
「フンッ。色に溺れやがってだらしがねえ。あの女,股にブツを突っ込む事しか考えてねえのかよ。」
色を知らない,いや知る事ができていないお前が言うなと言いたくなるが,必死に堪える。
人類最強が童貞である事の方がよっぽど士気に関わる。安易に口に出して,兵士達の耳に入れるわけにはいかないのだ。
ちなみに・・・彼女のおろし金の威力がバツグンなのは事実である。

-----何となくやる気が出ないし,少し遊んでみるか・・・。
「股に突っ込む・・・?どういう事だい?」
「あ?言った通りだ。あの変態女は,ヤル事しか頭にないと言ってる。」
嫌悪感を凶悪な顔面に出すリヴァイ。確かに,彼女の存在は,潔癖×童貞(しかも拗らせている)彼には刺激的すぎるかもしれない。
「あ−。私は彼女と“そういう交わり”はないんだが・・・。いや,私だけではないな,ハハ・・・。」
薄っぺらい演技では,面前の三白眼に見破られる事必至。今,私には完璧な演技が要求されているのだ。
「話が掴めねえぞ,エルヴィンよ。」
よし!僅かに三白眼が弱まったぞ。ここからが勝負だ,エルヴィン・スミス!
「つまり,誰も彼女と真の意味で関係を持ってはいないのだよ。情けない話さ・・・。」
思いっきり情けない男を演じる私に,リヴァイが目線(くどいようだが三白眼だ)で先を促す。
「彼女に言われたんだ。『あの人が壁を壊すその日まで,私は私のウォール・マリアを守る。
あの人が初めて女に進撃する日,その日が私のウォール・マリアが陥落する日よ。
私は兵士だから心臓は捧げてしまった。でもね,せめて私のウォール・マリアはあの人に捧げたい。』ってね・・・。
決意に満ち溢れたとても強い瞳だったよ。」
「・・・!!!あ,あの女は・・・」
「ああ・・・。そうさ。彼女はバ,バージンだ・・・」
口八丁を自負する私だが,流石にここまであからさまな嘘をつくのは至難の業である。
一体,どこの世界に“上はOKだが下はNO”な“大根大好き女”がいるというんだ。
だが,面前の男は,瞼に一層濃い縦線を作り,雷に撃たれたような顔をしている。心なし頬が赤い。
ここまであからさまな嘘に騙されるのは,童貞のなせる業か?童貞でない私には解らない。
「・・・俺は随分ひでえ事言って傷つけちまった・・・。アイツ,待ってたんだな・・・。」
(おいおい,勘弁してくれ!クッ・・・今にも吹き出しそうだ・・・。しかし,今暫くの辛抱だ,エルヴィン・スミス!)
「エルヴィンよ,先に言っておく。・・・すまない・・・!」
リヴァイはそう言って,七三分けを乱しつつ何とか笑いを堪える私を余所に,春風よろしく颯爽と部屋から出て行った。
入室した時とは打って変わり,彼の表情は非常に晴れやかなものだった。
あいつ,あんな顔出来るのか・・・。あれ?私は,きちんとネタばらししたのだろうか?
「あっ・・・」


この後,バージンの汚名を着せられた妖艶女子と一人トレンディドラマ状態のちぇりばいのやりとりに続く・・・?
 
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