非モテジャンくんとバレンタイン(現パロ)


「俺はモテたいんだよ!!」
「……そ、そっか。ジャンはいつもバレンタイン近くになると、そう言うよね…」


学生時代からの友人マルコが取引先で勤めていることもあり昼飯を一緒にすることにした。
安い定食屋で自分らと同じサラリーマンが同じように飯を食べている。日替り定食が餃子定食だったが昼食後は同僚と先輩からの頼まれもので出掛ける予定があり流石に止めた。……出掛ける同僚は…女子だ。


「…………チョコは、相変わらずお母さんから?」
「ち、ちげーよ!!………って言えたらいいよなぁ……」
「………………………あ、…あぁ、うん。そっか…」
「くっそー!学生生活最後のバレンタインにもかーちゃんからだけとか、俺本気で泣いたわ…」
「………そうだね。あのときのジャンの悲壮感と言ったらなかったよね……でも、今年は違うんじゃない?社会人だし本命は…神のみぞ知るだけど、義理チョコは社会人のたしなみみたいなものだからチョコゼロとかはないんじゃない?」

安い日替り定食はやめてマルコと二人で親子丼にした。決して広いとは言えない二人掛けのテーブルで食べ始める。

「ジャンはこれからその頼まれもので出掛けるんだね?…えーと、バレンタインのチョコを買いにだっけ?」
「…………なんで俺がチョコ買いに行かなきゃなんねーんだよ…めんどくせーあり得ねー…マジで…」


2月に入りどこの店舗もバレンタイン一色になりつつある今日この頃。
先輩からの頼まれたのはバレンタインに職場の男性に渡すチョコの買い出しだった。
新人は必ずしなければならない恒例行事らしい。男だろうが女だろうが駆り出されるが、………男が買いに行くのは初めてなんだそうだ。

大体、男より女の新人社員が多いのになんで俺じゃんけん弱いんだよ…自分の勝負運に泣きたくなる。










「外回りお疲れ様。…ジャンも運悪いね。私もだけどね」

百貨店の前で同僚のなまえと待ち合わせだ。マルコとは定食屋で別れてから流石に定食屋の臭いがすると思いフローラルの香りのファブリーズを吹き掛け噛むブレスケアも忘れず噛んだ。

今回の件でひとつ嬉しかったことは、なまえとふたりで買い物に行けることだった。
女子とふたりで出掛けることなんてまずない。だからこそ激しく緊張する。


「あ、あぁ、そ、そうだな。うんわるいな。はははやくかか買ってかかか帰ろうぜ!」

…やべーよ!吃りすぎだよ!俺!!焦ってるって思われちゃうじゃねえかよーー!!俺ー!!!



そんな心中を察したのかしないのかは分からないが、

「……そんなに買いに行くの嫌だった?そりゃそうだよね。バレンタインチョコの買い出しって酷過ぎだよね」


優しい言葉をかけてくれるなまえに跪きたい気持ちだ。

あんたは女神か!!

「そうだ。チョコを買いにきた彼氏彼女風に店に入ればいいんじゃない?……私、彼氏いないし。あっ、でも、ジャンはいたりするの?彼女。そしたら悪いよね…彼女さんに」


なまえの心配りに泣きたくなる。
そして本当に生まれた年齢の年の数=彼女いない歴ということに泣きたくなる。

お前はどんだけいい奴なんだよ!
もう、惚れていい?
惚れちゃっていいかー?!

「き、気にすんな!俺も彼女いないから!……気使わせて悪いな…そうしてくれると助かるぜ!」


よし!さりげなくお礼を言いつつ自分ペースに巻き込む!!モテる男特集の俺リスペクトの名言を実行に移す時が来たようだぜ!!


「じゃあ…行こう?」


そう言いつつ俺の袖をそっと握るなまえに俺の頭が爆発しそうだった。

なんなの?こいつ。
本当は、俺のこと好きなんじゃないの?帰り際とか『ジャンとふたりで買い物に来たかったの。今度、仕事じゃなくてプライベートでこない?お・ね・が・い♪』とか言われるんじゃねぇーのー?!?!
ヤべーよ。本気で惚れちゃうよ?!つーか、漸くモテ期到来?!なんだよ!おせーよ!モテ期!!!







なんて、脳内俺はテンションMAXだ。







「お疲れ様だったね。ジャン。お陰で結構早く買い出し終わったよ。男性社員が10人しかいないから楽だったね。…先輩のリストアップが分かりやすくてよかった…」

あれこれと妄想しているうちに買い出しが終了してた。

え゛?!
もう終わったのかよ?!
俺買い出し中全く覚えてないんだけど?!
なんにもしてない。俺。
なんにも覚えてない。俺。
さりげなくエスコートするんじゃなかったのかよ?!俺ー!!
なんだよ!畜生ー!!




項垂れる俺に

「………ジャン?疲れた?会社に戻る前にコーヒーでも飲んでいく?」

なまえの一言に消えかけた希望の炎が灯る。
女の人ばかりの店内だったもんね。ジャンのほうが疲れたでしょ?と会社への帰り道の途中にあるスタバへ入ることになった。

昼下がりの店内はまだ混みあってはいたものの店を出ていく客も多くすんなり席に着くことが出来た。

待っててね。と注文しに行くなまえをみて、俺が行けばよかったと後悔したのはなまえがラテをふたつ手に持ち席に着いてからだった。金は俺が出す!と言えば、今度ご飯奢って貰うから〜となまえは金を受け取らなかった。


こ、今度ご飯って…………。
マジで?!ふたりで出掛けようというメッセージ?!
やっぱ、こいつ俺のこと…。




「皆同じチョコを買うと思ってたけど、やっぱりエルヴィンさんとかは別格チョコだったね」


買い出しの袋をみてなまえが話す。

「…へ、へぇーそうなんだ」

「そうだよ。エルヴィンさんはダロワイヨでしょ?ミケさんはテオブロマでしょ?……他の平社員はメリーチョコの五百円のなんだけど…リストアップした先輩。センスいいね」

なまえの言葉に自分のピンク色の妄想を横に置く。
ダロワイヨ…?
テオブロマ?!
知らねー…そんなチョコ知らねぇよ…。高級チョコはゴディバしか知らねぇー…
何語を話しているか分からないなまえに愛想笑いしかでない。
しかし、ふと思う。
エルヴィンさんとかは…で、リヴァイさんの名前が出ないことに疑問を持った。

「あ、あのよ?リヴァイさんには何買ったんだ?」

なまえは少し困り顔で、

「……うん。なんかあの人こういうイベント嫌いらしくて…あげないことにしてるんだって。私も買い出しメモみて先輩に聞いたんだけど……あげないほうがいいって真っ青な顔で言われて…もう何も聞けなかった…」


そう言われて俺も、そ、そうか。としかいえない。
すげぇ。あの人、硬派な男だぜ。
モテるから言えるんだろうな…言ってみてぇな。俺も…。

「ジャンはチョコ沢山貰いそうだよね。馬………ううん。男前な感じだし身長高いし。いいなぁ。大体なんで男がチョコ貰うのかな。絶対、女子のほうがチョコ好きだよね。バレンタインだけ男になりたい。チョコ沢山ほしい!!」


男前な感じで身長高い…?
あ、なまえ…俺をそんなふうに見てたのか?
これ…マジでいけるんじゃねぇ?

スタバのカップがテイクアウト用じゃなくて本当よかった。間違いなく握り潰してた。それほどに興奮している自分になんとか平静を装う。

「……へ、へぇー。なまえはチョコ…す、きなんだな!あ、あのよ。なまえはチョコとか誰かに上げんのか?」


その言葉にかぁっと赤く頬を染めるなまえに心の中でガッツポーズをした。

俺にだ。こいつは俺に本命チョコってヤツをくれる気だ!

「……な、なんだ…バレてた?……うん。そうなの。なんか恥ずかしいなぁ…。初めてあげるんだけど…やっぱり手作りとか重い…よね?買って渡そうとは思っていたけど…手作り…上げたいかな。本当は」


なまえの言葉に、

聞いてくれ!マルコ!!
俺、今年のバレンタインに童貞卒業しそうだぜ!!!

と心の中で叫んでることは目の前の彼女は知らない。
己の逸る気持ちを押さえる為、温くなったラテに口を付けた。

「男なら、好きな女から貰えるなら手作りでも買った物でも喜ぶんじゃね?イチゴ味のチロルチョコでも喜ぶぜ!!絶対!!!」


自分でも何を言ってるか分からないが、気を使うなよ!なまえ!俺はお前からの本命チョコ受け取ってやるからよ!!のメッセージを込めて彼女に伝える。
すると、何とも可愛らしく笑う彼女に、こいつが俺の女になるのかぁ…とにやけ顔になる自分を止められない。




「……そ、そっか。ありがとう。ジャン!でも今年は買って渡そうと思うよ。………きっと沢山の人から貰うんだろうな……………エルヴィンさん…」




は?




はぁ?!
な、なんでそこで上司の名前が出で来んの?!?!
お、お、お、俺じゃ……ねぇのかよーーーーー!?!?
なんだよ!期待させといてそりゃねぇだろよーー!!
彼女のフリで腕組んで?
男前で身長高いしって?
…………悪女だよ…あんた。俺の純情を返せよ!!!
脱☆童貞!!とまで妄想した俺馬鹿ジャン!!!

俺!馬鹿ジャンーーーー!!!






…ジャンってイチゴ味のチロルチョコ好きなの?あれ?顔色悪いよ?大丈夫?!


と心配されてるのも気付かず、どうやって会社に戻ったか覚えていないほど項垂れて帰った。










そして俺を待っていたのは不幸の続きだった。
2/14当日、先輩のチョコリストにまさか俺の分を書き忘れていたなんてことを、一緒に買い出しをしたなまえの口から聞く羽目になるなんて思いもしなかった。






しかし、神は俺を見捨てた訳ではなかった。
誰かは知らないが2/15出社すると俺のデスクにイチゴ味のチロルチョコが鎮座していた。膝から崩れ落ちるように座り込み、誰も出社していないオフィスでその小さなチョコを拝んだ。


即、親友にメールして

『俺!今年の夏には脱☆童貞を宣言するぜ!!』

と、休暇のマルコを苦笑いさせたのは言うまでもない。





end.


くまこさんより

恐くて如何でしたでしょうか?と聞けない…。本当はもっとも不憫な目にあわせたかったんですが、私の妄想力不足と良心がジャンくんを救済してしまいました。・゜゜(ノД`)誤字脱字恐らくあると思います…返品、クレーム受け付けます(^-^)ゝ゛

それでは失礼しゅたいんしました!!(これもひとつのパクりですかね…しゅたいん挨拶私も好きなのです!)
 
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