マ ル が ほ し い の



「えっ、なまえ、アルミンが好きなんだ」

友人は驚いた顔をして私を見た。
お風呂を出た後みんなで布団の上で恋バナをしているうちに、エレンが好きとか、ベルトルトの影のある感じがいいとか、イケメンと評判の他の男子が好きだとか、104期の中での自分の好きな男子の暴露大会が始まっていた。
アルミンの名前を挙げたのは私だけだったので、「何で」と理由を尋ねられ、私は少し恥ずかしくなって黙った後、「頭がいいから・・・」と答えた。

「なまえってほんとアホで可愛いね」

みんなは笑って私の頭を撫でたりしてきた。
だって、本当にそう思うんだもん。
私は割と立体機動の演習とか、対人格闘とか身体を使う科目は好きだけど、座学だけはどうしてもからっきしだめで。
どんなに頑張って勉強をしても全くみんなに追いつけない。
テストが返されるたび、すぐに数えられる“マル”の数にいつもため息をつく。
(一度は“マル”がいっこだけだね、と先生に笑われた。つまり、“0”点。)

「アルミンと仲良くなりたいのならさ、勉強を教えてってお願いすればいいんだよ。大好きなアルミンと近付けるし、勉強も教えてもらえるしで一石二鳥じゃん!」
「で・・・でも、わたし本当にしゃれにならないくらいに勉強できないから・・・とてもじゃないけど恥ずかしくて勉強教えてなんていえないよ・・・アルミンの言うような難しいこと、きっとほんの少しだって理解できないから・・・」

私ががっくりと肩を落とすと、私の散々たる座学のテストの結果を知っているみんなは苦笑いを浮かべて、ため息をついた。



ある日、嬉しい出来事と、悲しい出来事が一緒に起きた。

嬉しい出来事は、座学でたまたまアルミンと席が隣になれたということ。
これは初めてのことで、いつもエレンとミカサと座っている彼の隣に座れるなんてことは本当に、神様の贈り物としか思えない。
休み時間、一人遅れて教室に入ってきたアルミンが、たまたま一人で座っていた私のところに来て「いい?」って。
私はどきどきしながら「うん」と答えて、胸を高鳴らせたまま落ち着かずペンケースを開けたり閉じたり、中から筆記用具を出したりしまったりして、授業に供えた。

悲しい出来事は、その座学でミニテストがあって、隣の人と答案を交換して採点をするように言われたことだ。
突然ミニテストが始まっただけでも私は絶望的な気持ちになったのに、隣の人と答案を交換して採点をしなさいと言われたとき、私は泣き出したくなった。
もともと自信なんてないんだけど、今日は特にアルミンが隣にいて緊張していたこともあって、いつもより更に自信がなかった。

「はい、なまえ・・・」

採点が終わると、アルミンがその白くて華奢な女の子のようなきれいな指で、私の答案を裏返して返してくれた。
私もアルミンに採点した答案を返した。もちろん、満点だった。
そして、私の答案のはしっこだけを、恐る恐るめくってみると――――――
点数が、書いていない。
私はまた泣き出したくなった。
恐る恐る、机の上に置いた答案をめくるようにしてひっくり返してみる。
10問ある答えの全てに、とても綺麗な赤字で正解が書き込んであった。
間違っているというしるしをつけることを、そして、“0”の数字を書くことを、可哀想に思って配慮してくれたのだと思う。

「あ・・・ありがとう・・・アルミン・・・」

私は泣き出しそうな声でやさしいアルミンにお礼を言った。

「ううん、なまえ。よかったらさ、あとで教えてあげようか・・・?」
「・・・えっ?」
「その・・・僕なんかで良かったら、だけど・・・」

泣き出しそうに震えていた私の目と顔は、意外すぎる喜びでみるみるうちに熱くなっていった。
「うれしい」、私は何とかアルミンにそう伝えると、アルミンはその綺麗で大きな青色の目をすこし細めて、「いいよ」とふわりと笑った。



夕日の差し込む教室に、テキストと筆記用具を持った私は、落ち着かない様子で入った。
私を待っていてくれた様子のアルミンは私の顔を見つけてにこりと笑うと、私に近付いてきた。

「先生にお願いして、これまでにやったミニテストをもらってきたんだ」

アルミンはテストの束を差し出すと、二人分あるから一緒にやろうと言った。「僕も復習したいから」って。アルミンにはそんな必要、全くないのに。
また自分のバカさ加減をアルミンに見られてしまうんだなと思うと私はかなりブルーな気持ちになったけれど、さっきもう見られているんだし、彼は教えてあげると言ってくれている。
前向きに頑張ろう、と私は椅子に腰掛けた。

何回かミニテストをやっては答案を交換し、5回分くらいをやってみただろうか。
採点が終わるたびにアルミンは、間違いだらけの答案の間違いの部分をひとつずつ丁寧に教えてくれた。
金色の髪を揺らして、顔を近付けて、アルミンは一生懸命頭の悪い私に少しでも分かりやすいように説明をしてくれる。
じつは彼の顔が近くにあることにとてもどきどきしていたし、賢いアルミンの言っていることは半分くらいは分からなかったのだけど、私はうんうんと頷いて一生懸命彼の説明に耳を傾けていた。

「じゃあ、もう一度最初のテストからやってみようか」

アルミンがテスト用紙をまた差し出した。
本当に同じ問題だ。どうやらアルミンは同じテストを4枚ずつ、もらってきてくれていたらしい。
これをやれば、教えてもらったことがちゃんと理解できているか確認ができるだろう。
彼の説明が全部理解できたわけではないからなぜその答えになるのかしっかりは理解できていないと思うけれど、答えだけくらいならまだ覚えているかもしれない。
どきどきしながら私はテストに向かった。

「これで最後だね。ちょっとだけ、自信あるかも」

最後の答案を交換したとき、私は生意気なせりふをアルミンに言ってみた。
それは今日のテストと同じ内容だった。
一日に3度も同じテストを受ければさすがに点数はいいだろう。
アルミンはふふ、と笑った。

1問目、マル。2問目、マル。当たり前か。アルミンの答案は採点するのが意味がないと思うくらいに、これまでもぜーんぶ丸ばかり。全部満点だった。
9問目、マル。10問目、マル。11問目、・・・?

全部で10問のはずのミニテストに、11問目がある。
・・・ううん、これは、テストの問題じゃない。アルミンの、いかにも賢そうな綺麗な字だ。

「・・・それにもマル、くれる?」

手元に釘付けになっている私に、アルミンがやさしく囁くように言った。

「あ・・・アルミン、これって・・・」

私は真っ赤な顔を上げて、アルミンを見た。

11問目には、こう書いてあった。



“ぼくの彼女になってくれませんか”



おわり

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