初 恋 泥 棒
石造りの強固な調査兵団本部には、荘厳、とか、重厚、とか、そういった形容がよく似合う。
唯一、色気を放っているのがメインエントランスに飾られている大きなフラワーアレンジメントだ。
なまえはそのフラワーアレンジメントを請け負う花屋の娘。
週に1〜2回、本部に来てはせっせと玄関に彩を添えている。
「・・・よし。こんなもんかな」
自分の背丈より大きなアレンジを完成させ、なまえはうっすら額ににじんだ汗を手で拭った。
脚立を降りて着地する時、一瞬バランスが崩れる。
「あっ・・・!」
不意に、そっとやさしく肩を支えられる感触。
「おっと・・・大丈夫?」
上を見上げると、目の前に、金髪に、深い翡翠色の美しい瞳。
絵に描いたような、美青年の顔。
なまえは目をぱちくりと開き、言葉を失った。
「・・・きれいにできたね」
仕上げた花を見てにこり、と笑うと、彼は優雅に歩いていった。
(お・・・王子様・・・!!!)
なまえは、自分の顔がみるみる熱くなるのが分かった。
「・・・あっあのぉ・・・!!!」
すぐそこにいた眼鏡を掛けた兵士に、なまえは叫ぶように声を掛けた。
「い、今の方、何ておっしゃるんですか・・・!?」
「え?今の?・・・あぁ、ナナバの事かな?」
「あ、ありがとうございます!!ナナバさん、っておっしゃるんですね」
なまえは顔を紅潮させたまま、瞳を輝かせて答えた。
ナナバの名前を教えた兵士は、ぷっと吹き出す。
「でもね、君、ナナバはね」
「ハンジ」
隣にいた、ガッシリとした体格の兵士が口に指を当てた。
(面白いから、そのままにしておこう)
彼が耳打ちしたので、ハンジは笑いを堪えて小さく頷いた。
彼らのやりとりも気に留めず、なまえはウキウキしながら切り落とした茎や葉を拾い、後片付けを始めていた。