大学四回生、就職先も決まったし単位もゼミ以外はほぼ取りきってある。
ジャンのゆるんだ生活はバイト中心になっていた。
週五で入っていたから結構稼げたし、何よりそこにフリーターのなまえがいる事が彼の生活の中心がバイトになった理由だった。
年上のなまえは彼にとって憧れの存在だった。

「ジャン、早く2番のテーブル下げて!」

忙しい店内でいかにもダルそうにジャンがダスターと消毒スプレーを持ったので、彼に指図したミーナはイラッとして「何その態度!」と追い討ちを掛けたが、彼は彼女を一瞥もする事なくスタスタと2番テーブルへ向かって行ってしまった。

「ミーナ、仕方ない。今日は日曜日だ」

店長のエルドが、彼女の頭をポンと撫でた。



日 曜 日 は 嫌 い だ



「昨日はごめんね。本当にありがとう、、」
「いや、全然いいっスよ」

翌日の月曜日、ジャンとなまえ二人で店じまいをした帰り道。
心底申し訳なさそうにそう謝ったなまえにジャンは全く構わない風に答えたけれど、実際彼の心にはモヤモヤしかなかった。
何でもなまえと彼は日曜日にデートをすると決めており、従順な彼女は毎週日曜日は必ず休みを取っていた。
それなのにこの間の日曜日は何故かシフトが入っていたからジャンはおかしいなとは思っていたけれど、まさか当日ドタキャンでジャンにピンチヒッターを頼んできたのだ。
憧れのなまえがどこかの男といちゃついている間に自分がいつも通り働いているかと思うと心底腹が立つから、今はジャンも日曜日はよっぽどの事がない限りはシフトを入れない。

「ねぇジャン、良かったら今度お詫びに何か作って持ってくるよ。お菓子でも料理でもいいよ。何か好きなものある?」

普通ならなまえの手作りの何かを食べられるなんて、とテンションが最高に上がって派手目のガッツポーズでもキメていたに違いないのだけど。
今のジャンは単純に喜べないくらい、少しセンチメンタルを拗らせている。

「んー、、そうっスね、、まぁ、なまえさんが作ってくれるんなら、その・・・何でもいいですけど」

彼は結構勇気を出してそう言ったのに、なまえは「何でもいいって言われると困るなー」と笑った。
ジャンは彼女のその無邪気な笑顔が、ちくしょう可愛いぜと思いつつ、面白くなくもある。

――――昨日は何でバイトドタキャンしたんだよ?会う予定じゃなかったのに急にカレシと会える事になったからバイトをドタキャンしたのか?そこまでしてカレシに会いたいって事なのか、、

そう考えるとジャンは益々気が滅入って、苛立ちを覚えた。

「じゃあ、食べられない物とか嫌いな物は?」
「・・・嫌いなもんならありますよ」
「え?何?」
「・・・・・・日曜日」
「んっ?ニチヨウビ??あっ、“日曜日”?何で?」
「なまえさんがバイト入ってくれないからですよ」
「いや〜、昨日はもうほんとごめんっ」

そうじゃねーよ、とジャンは心の中で毒づいて、最高にイライラとした感情が込み上げてきた。
けれどなまえはそんな複雑なジャンの心中なんて知る訳もなく、張り切って作るねなんて話し続けている。

『間もなく一番線に列車が参ります。黄色い線まで下がって――――』

アナウンスが流れ、プラットホームには生ぬるく身体に悪そうな風が吹き込んできた。

「今日はジャンが先だね」

なまえは彼とは反対方向の二番線の列車で帰る。
地下鉄を待つ僅かな時間で、ジャンは何かを決したらしい。
じゃあ、となまえが彼に別れを告げて背中を向けようとした時、ジャンは不意に彼女の腕を捕まえた。

「――――日曜日が嫌いなのは、俺がなまえさんを好きだからです」

なまえは見たこともない表情でジャンの突然の告白に固まっている。

「俺は昨日なまえさんの代わりにバイト入ったのが嫌だったって訳じゃないんで。・・・勘違いしないでください」

発車音が流れ、ジャンはなまえの腕を掴んでいた手を淡白に離すとそのまま列車に乗った。
ジャンは地下鉄に乗ってしばらく扉に背中を向けたままでいたので、その時なまえがどんな様子でいたかは分からない。

『駆け込み乗車は大変危険です。次の列車に乗られるか、時間に余裕を持って――――』

列車の中には駆け込み乗車に注意を促す車内放送が流れている。
ああこれ、俺の事か、とジャンはぼんやり思った。

(俺はマジで何してんだ、、それもこれも、クソみてぇな日曜日のせいだ)

ジャンの乗った列車が次の駅を出る時に携帯に何かの通知が着た気がしたけれど、怖くて画面を見る事ができない。

見映えのいいカフェの店員になってイケてる自分を演出したいといういかにも彼らしい理由でバイトを始めてから3年、出会った瞬間に憧れの存在になったなまえとそれなりにいい関係を作ってきたというのに、それも多分今日で終わりになるんだろう。
列車がガタンと揺れ体のバランスを崩した時、不意に涙が込み上げてきて、堪えきれなくなる。

ジャンはますます日曜日を呪った。




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