昼間の地獄が嘘のように、今夜も静かだ。
そう、静かな夜のはずなのに、壁外の夜はいつも独特な異質さしか感じられない。

ランプの橙に塗られた金色の髪がさらりと揺れて、宝石のように青い大きな瞳が覗く。
恥ずかしそうに伏せられている金色の睫毛も、橙に塗られている。
壁外調査の途中、背中を負傷していたらしいアルミンが血に滲んだシャツで目の前を歩いていたものだから、声を掛けずにはいられなくて。

「服は破れてないけど、背中、結構な怪我してるよ」

絹みたいに滑らかで白いアルミンの背中には、ひどいすり傷ができていた。
水に濡らした布で拭くと、アルミンはぴくりと反応する。
相当痛いはずなのに、声を上げたりはしない。

「痛くないの?」
「痛くない、よ」

私も前同じような怪我をしたけど、こうやって傷口を手当てされるのは結構な痛みを伴うもの。
それでも手当てしとかなきゃ化膿したりして取り返しのつかない事になってしまう事もあるから、ちゃんとやっておかなきゃいけない。

彼の傷に触れる度、アルミンはぴく、と白い身体を小さく震わせる。
壁外というシチュエーションの吊り橋効果のせいなのか、何だか自分がアルミンに欲情しているというか、まるでセクハラでもしてるような気になってきて、、

(何なの、このやましい気分は、、)

猛烈にドキドキと胸が鳴る。
思えばアルミンは男女問わず一部に人気がある。
元々女の子に間違われるくらい見た目も少し女の子っぽいし、人当たりも彼の持つ雰囲気も柔らかくてふわふわして可愛らしい。
そして何かふとした時に、一部の人々は彼の持つこんな表面上の危うげな魅力に惑わされてしまうのかもしれない。

急いで手当てをして、終わったよ、と彼に声を掛けた。

「ありがとう、なまえ。ごめんね、こんな事までしてもらっちゃって、、」

服を着ながら、アルミンは申し訳無さそうに言った。

「・・・アルミンて、ほんと何かかわいいっていうか何て言うか、、何だか心配で構いたくなっちゃう」
「そ、そうかな・・・女の子にそんな事言われるとちょっとショックなんだけど」
「ご、ごめん」

アルミンは苦笑いをした後、何かを考えるように青い瞳を一瞬斜め上に向けた。
そしてその目が私にもう一度降りてきた時。

「、わ!?!」

私はアルミンに、ふわ、と軽々持ち上げられていた。
いわゆる、お姫様だっこで。

「――――ほら、僕だってちゃんと男の子でしょ」

至近距離にある真っ青な瞳がやわらかく細められる。
そう言ってにこりと微笑んだアルミンは、本当に王子様みたいで。
アルミンにがっしり抱かれた私の身体は全く不安定な感じはしない。
だってそりゃ、あれだけ訓練してこんなに肉体的にもハードな毎日を過ごしてるんだもんね、、

「わ、わ、わ、恥ずかしい、、ごめん!」

うろたえまくる私にアルミンは、あはは、あっ、背中ちょっと痛いや、と笑った後、私をそっと降ろしてくれた。

「ありがとう、なまえ。そろそろ戻ろう。明日に備えて寝なきゃ」
「う、うん」

まだ胸が激しくドキドキと鳴っている。
女の子みたいにさらさらと綺麗な金髪をなびかせて前を歩くアルミンは、もうしっかりとした男の子にしか見えなくて。

(ギャップ萌えとか色々やばい、、)

多分お姫様だっこされた時から顔はめちゃくちゃに真っ赤なままだと思う。
そう、私は簡単に、ふわふわしてかわいい彼の一撃に、まんまと落ちてしまった。


一 撃 に 落 ち る

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