色素も形も薄い、兵長の唇。
一見とっつきにくくて冷たそうに見えるその唇が、じつはキスがとても好きだということを私は知っている。
たくさんのそれをもらえる権利を持っているというのが、少なくとも今は、私だけの特権。

だけど、別に付き合っているからといって、勤務中まで何かを期待してしまう程私も若くないし、兵長だって公私は分けたい人だと思うし、きっと公私混同するような女はきっと兵長は嫌いだし―――――、

ああ、でも。
二人で会ってる時みたいに、ああやって、キスしてほしい。
いつも程たくさんじゃなくてもいい。
いまは、一度だけでもいいから。

「・・・分かった。サインするからこのまま持って行ってくれ」
「・・・あ、はい」

・・・なんて、真面目な顔して書類に目を通してる兵長の唇を見ながら邪まなことを考えてた自分が急に恥ずかしくなってきた。
これは、視線を使った一種のセクハラだったかもしれない。
兵長から書類を受け取り、顔をぱたぱたと扇ぐ。

「おい、なまえ」

急に呼び止められ、ドアを半分開けた手を止める。
何だか(勝手に)恥ずかしくて気まずいから早く部屋を出たいのに、こんな時に限って。

「何でしょう」

兵長は、ズンズンとこちらに向かってくると、開きかけたドアをバタンと閉――――

「・・・・・・!!」

「行って、いいぞ」

唇を僅かに外して、兵長はニヤリと笑った。

「は・・・はい」

部屋の外には出たけれど、ふいをつかれて顔が真っ赤だ。
書類で顔をさりげなく覆う。

・・・あなたには、私の心が読めるのですか?



そう、兵長に、されてしまった。


「じゃあな」、のキス――――



兵 長 は キ ス 魔


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