「ねぇエレン、、少しだけ甘えてもいい?」
舌足らずにそうこぼすと、なまえさんはオレの肩に頭をもたれかけた。
アルコールの匂いに混ざって彼女の髪の香りがふわりと香る。
なまえさんから“あの人”の話を聞く時は酔ってる時が多い(オレはただ何も言わず、ひたすら彼女の嘆きや愚痴を聞くだけだけど)。
この間はこうやって酔ってくっついてきた後、なまえさんはオレにキスをした。たぶん、覚えてないだろう。
「はぁ、、気持ちいいね」
なまえさんはオレの腕を両手で抱え込むようにして、更にオレにぎゅっとくっついた。
なまえさんの感触は、生温かくて、やわらかい。
「んー、、エレンすき」
「オレは酔っ払いの女は好きじゃないですけどね」
「・・・ウッソだぁ、この間私にキスしたくせに。」
驚いて、オレは思わずなまえさんを見た。
「――――お、覚えてたんですか!?でも、あれはなまえさんがオレにいきなりキスしてきたんですよ!!」
「だけど、最初のキスの後はエレンからしてくれたじゃん。たどたどしかったけど何だか初々しくてドキドキしちゃった」
「〜〜〜〜〜〜!?!!」
何か叫ぶように口をパクパク動かすけど、何の言葉も出て来やしない。
――――ああ、マジで最悪だ!
やり場のない感情のまま、オレは前髪をぐしゃぐしゃに撫でつけた。
大体なまえさん、卑怯だよ。そりゃだいぶ酔ってたから覚えてないはずなんてオレが決めつけたのも悪いけど、、。
「・・・ねぇエレン、今日も、キスしてくれる?」
あたふたしてるオレの事なんて全くお構いなしで、なまえさんは鼻のくっつきそうな距離でいたずらっぽくそう言って笑い、オレを挑発する。
オレはバカだから、その顔と言葉に簡単に心が乱されてしまう。
――――いけないと、分かってるのに。
「、、冗談やめてください。そういうのは“あの人”に頼めばいいでしょ」
「・・・あの人に簡単に頼めるなら、こうやってエレンに愚痴ったりしてないと思わない?」
――――だから、ねぇ、エレン。
そう言うと、なまえさんはこの間みたいに、オレに触れるだけのキスをした。
「・・・イヤ?」
やわらかい唇をゆっくりと離し、オレを覗き込む。
イヤだと言わなきゃいけないのに、その目を見たらそんなことは言えなくなってしまう。
「・・・イヤじゃ、ないです」
絞り出したようなオレの返事に小さく笑うと、なまえさんはオレにもう一度キスをした。
今度のキスは、触れるだけじゃない。
なまえさんの舌がオレの中に入ってきて、口の中と舌を弄ぶようにゆっくりと動く。
、、うまく息ができなくて、でも何かに引きずり込まれるように気持ち良くて、オレはまるで溺れていくみたいだ。
呼吸の合間、自分からこういうキスをするのはあまりしたことがないから何か変な感じ、となまえさんは笑った。
「でもエレンには私からしたくなっちゃう。何でだろ?」
そしてまた、オレは溺れていく。
エレンが私の恋人だったら良かったのに、となまえさんが言った。
「エレンといると、初恋みたいに純粋にドキドキして――――胸がいっぱいになって、すごく満たされた気持ちになるの。エレンが彼氏だったら、幸せだろうな」
――――それなら、なまえさんは何で今そんな泣きそうな顔をしてるんだろう。
きっとオレがなまえさんに感じるのと同じ感覚で、彼女は“あの人”に溺れてるんだろう。
呼吸の苦しさとはまた別のところで、何かがこみ上げてくるように胸が苦しい。
なまえさんといると、何でオレはいつもこんなに苦しいんだろう。
彼女が隣にいる未来だなんて考えることすらできないんだと、とっくの昔から分かっているのに。
オレはゆっくりとなまえさんを押し倒す。
しっかり彼女を組み敷く体制になってから、オレは言った。
「・・・こんなことしても、そう言ってくれますか?」
返事を聞くつもりなんて、最初から無い。
瞳を揺らしそれでも真っ直ぐオレを見つめるなまえさんに、オレは食いつくようにキスをした。
望 み な ん て と っ く に 手 放 し た(、は ず な の に 。)