ハンジさんと私は、たぶん他の人とよりもう少しだけ、仲良しだと思う。
2人でこっそりたまにご飯に行ったりするし、ハンジさんは何でも私の話を聞いてくれるし、私だってハンジさんの話をどれだけだって聞いてあげられるし、何より、その時間がすごく楽しいと思うし、ハンジさんだってそう言ってくれる。
でもみんなといる時は、敢えて仲良さげにしてくれる風でもなくて。
ハンジさんにとって、私って何なんだろう。
私はハンジさんのことが、大好きなのに(そしていくら人と感覚の違うハンジさんだって、うっすらくらいはそれが分かってるだろうと思う)。

少し離れたところにいるハンジさんを眺めながら、ハンジさんてほんとカッコイイなぁ、でも、ほんと何考えてんだろ…なんてぽーっとしながら口に付けていたジョッキを置いたら、覚束無い手元はそれを思いきりそこへ倒してしまった。
食堂では酒が振る舞われて、今夜はみんなで大騒ぎしている。

「うっわ!!おま、何してんだ!!」
「え?あっ?!」

遅れて伝わってきた冷たい感触に驚いた私は、のけぞった椅子から大きな音を立てて落ちてしまった。

「あれ〜、何なに何の騒ぎだい?」
「ハンジさん!ひどいんすよ!なまえがジョッキ倒して俺の服が濡れて」

隣に座ってた同期の服も、濡らしてしまったらしい。ああ〜しまったなと思うのに、酒がすっかり回っている頭と身体では、ぼんやりそのことを理解するのが精一杯で。かなりの尻もちをついたはずなのに、痛みも全く感じない。

「なまえの服もだいぶ濡れちゃってるじゃない。おいで、なまえ。それじゃ気持ち悪いだろ?悪いけど後は拭いておいてやってくれる?」

ハンジさんに手を引かれるまま、私はぐらぐら頭を揺らしながら歩く。たぶんこれは寮の方に向かってるんだろうか。
鍵を回す音が聞こえドアが開き、見えた光景は私の知っている自分の部屋のそれではなかった。

「ひどいのはジャケットだけで済みそうだね・・・」

いつの間にかジャケットはするすると脱がされ、ハンジさんは手にしたタオルでポンポンとシャツの濡れている部分を拭いてくれている。
そのうち、ここはこっそり遊びに来たことがあるハンジさんの部屋だ、とぼんやり分かってきた。

「何か、スミマセン、、」
「いいよ。なまえの世話をするのも悪くない」

ふふ、と笑った後、ハンジさんはこれでいいかな、と言った。

「残念。シャツも脱がせたかったなぁ」
「あは・・・やめてくださいよぉハンジさん」

ドキドキしちゃう、とへべれけに笑いながら答えハンジさんの顔を見上げた瞬間、私は息を飲んだ。
その顔が、とてもやさしく、挑発的で、とてつもなく色気を帯びた微笑みを浮かべていたから。

「じゃあ、もっとドキドキしてみる?」

その言葉の意味が分からないまま表情の作り方を迷っている間に、私はハンジさんにぎゅっと、抱きしめられていた。

「どうせ今夜はみんな、なまえと私が抜けてることになんか気付かないよ・・・ねぇ、一緒にいようよ。私がなまえをもっとドキドキさせてあげるから」

「・・・は、は、、」

今まで2人でいる時どんなに距離が近付いたって、ハンジさんは決して私を抱きしめたり、キスしようとしたりする素振りなんて見せたことはなかったのに。
私に初めて触れてきたハンジさんが、余りにも危険でカッコイイ笑顔で私を見つめるもんだから、私は自分の片思いの気持ちの赴くまま「はい」なんて返事をしていいのか、それともこの危険な誘惑に負けてはいけないとNOを言わなくてはいけないのか、一瞬のせめぎ合いの間に、気付けば恐ろしい程カッコいいハンジさんの顔は鼻と鼻がくっつきそうなくらい、近付いていて。

「ね、いいでしょ?」

ぞくぞくする、ハンジさんのハスキーな声。
何か答えようと思いついた訳でもなく「あの」、と口を開こうとした時には、唇はハンジさんにしっかりとふさがれていた。


危 険 な 誘 惑

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