性のめざめ


そのひとの顔は、よく覚えていない。
エレンはとにかく彼女とのキスが気持ちよくてもっとそれを重ねたかったのだけど、キスの仕方なんて分からないから、柔らかなその唇に夢中になって吸い付いた。
彼女の腰に置いていた落ち着かない手に不安と期待を擦り込みながら上へ動かし、やがて掴んだ彼女の胸を白いブラウスの上からしっかりと揉んだ。

――――柔らかい。
女ってのは、何でこんなにどこもかしかも柔らかいんだ。
ひょっとしてこいつは訓練をろくにしてないんじゃないか。
だって俺の身体はこんなにも硬い。
見た目がなよなよしていると言われているアルミンだってしっかり身体は筋張って少年らしい体つきをしているし、彼女と同じ女のミカサだって自分と同じかそれ以上に筋肉がついている――――

服の上から掴んだはずの胸は、いつの間にか一糸纏わぬ姿になっていて、白い乳房が露になっている。
一瞬息を飲みそれを凝視した後、ツンとなっているそこにたまらなくなって、思いきりその胸にむしゃぶりついた。
あむあむと訳も分からずそれを夢中になって口に含んでいると、すっと目の前から手が伸びてきて、エレンの下腹に触れた。
思わず、あぁっ、とエレンは悩ましげな声を上げる。
先走ったもので濡れていたそこは彼女のやはり柔らかな手でぬるぬると動かされて、エレンはビクビクと身体を反応させた。
自分が荒く吸って吐く息しか聞こえない。
なぁ、と彼女に話し掛けると、彼女の唇は穏やかに弧を描いている。
その顔があまりにも綺麗に、色っぽく見えたので、彼女がしっかりと彼のそれを掴んで擦り上げた次の瞬間、―――――――――


「!!!!!」


飛び起きた部屋は真っ暗で、隣にはアルミンが静かに寝息を立てて眠っている。
エレンは息が荒いまま周りがしっかり寝静まっていることに安堵すると、下の夜着をそっと上げた。

(最悪だ、やっぱりな・・・)

いやらしい夢の名残がしっかりと彼の下着の中に残されている。
何とか周りが起きないようにベッドを抜け出して、これから洗濯に行かなければならない。
濡れた下着に感じる不快感と情けなさに、エレンは目元を押さえてがっくりとうなだれた。



それにしても、とエレンは思った。
座学のテストの回答が終わって、見直しも2回した。
周りはまだ机の上のテスト用紙と睨み合っているようだった。
昨夜は下着を洗濯してから床に戻ってもなかなか眠れず、すっかり今日は睡眠不足だ。
もう見直しもいいだろうと天気の良い窓の外をぼーっと見ていると、昨夜見た夢のことが、頭に浮かんだ。

(あれは誰だったんだ)

それはエレンが今まで夢精してしまった夢の中でも、とびきりいやらしかったように感じる。
エレンは彼女のことを、とびきりいやらしくて、とてもイイと思った。
顔は確かに見えていた。
誰かも分かっていた。
あれは自分の身近にいる、知り合いのはずだ。
けれど、それが誰か思い出せない。

思い出そうとした時、むく、と彼の下腹が反応してしまったので、エレンは驚き焦った。
隣にはミカサが座っている。
反射的に背中を丸めミカサとは反対へ顔を向けた時、通路を挟んで隣に座っていたなまえと、目が合った。

「!!!」

屈んだままのエレンは驚き目を見開くと、なまえを凝視したまま、顔を真っ赤に紅潮させた。
なまえは彼の様子に驚いて、目を丸くしている。

「あ・・・、」

不安定に口を動かして思わず出た声は、エレンは自分でも何と言うつもりだったのか、分からなかった。

「(ど・・・、どうしたの、エレン)」

明らかにおかしな様子のエレンに、なまえもどうしたらいいか分からぬ様子で小声で話し掛ける。
彼女はエレンとあまり親しいという訳ではないし、座学のテスト中誰かに話し掛けるというのは相当ハードルが高いことだっただろう。
「いや、何でもねぇよ」と何とか返すと、エレンは下腹部をそれとなく片手で隠し、ミカサもなまえも自分の視界から消すように、机でうなだれた。
混乱する頭の中は、空気を読まず大きくなってしまった彼の下半身と、なまえのことでいっぱいになっている。

・・・そう、一体何故。
何で昨夜、彼女が。

(―――――なまえかよ・・・、何でなまえと俺が、あんなこと)

そう、あのいやらしい昨夜の夢に出てきたのは、紛れも無く、同じ104期生、対した繋がりがあるわけでもない、なまえだった。

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